第3話 その時ユキちゃんは

おかあさん。かな、生きていけない。

お前は、まだ人生それだけしか生きてないのに、何を言っているか。

ひとがこわいの。かながまだちいさくておとなしいから、おとなもこどもも、いろんなことをかなのせいにしてくるよ。そうして、かなにごみすてをしてふたをしていくの。かな、あんなことしてない。あんなこともいってない。かなは、ごみばこじゃないのに。かな、もうたえられない。

かな。お前はうまいことを言うな。よく聞きなさい。お前は、とにかく、本を読みなさい。そうすれば、お前はちゃんと生きていけるから。あそこへ、本があるから、どれでもいいから読んでみなさい。


ある日、かなはおきたままゆめをみた。だれかみしらぬ女の子の手を、だれかしらないおとこのひとが、りょうてにちいさなはものをにぎらせてぐるぐるまきにしていた。そのしゅんかんに、女の子は、人形のユキちゃんになっていた。ユキちゃんは、すくわれないかおでなきさけんでいた。そのまま、ユキちゃんは、まっすぐこちらにはしってきた。かなは、そのりょうてのはものをとろうとして、ユキちゃんの手のしろいほうたいをぐるぐるまわしてとろうとした。だけれど、そのほうたいは、どこまでものびてユキちゃんのりょうてをらくにはしてあげられなかった。かなは、ユキちゃんといっしょになきくずれた。


わがやにきたユキちゃんは、かなをいつかころそうとおもうにちがいない、とかなはおもいこんでいた。だから、かなは、そのようなきもちにさせないために、きんちょうしながら、ひっしにせわをすることをはじめた。

やっぱり、女の子だからかみをきれいにしてあげないと。ごはんはどうしよう?

「おかあさん。この子、なにをたべるかな?」

おかあさまのこたえはこうだった。

「そいつは、なにもくわん」

「それじゃ、このままよわってしまう。なにか、たべさせないと」

とりあえず、パンをやいて、ユキちゃんをだっこしながら口にもってきた。

(どうだろう?たべているかな?)

ユキちゃんに、おなかがいっぱいになったかきいてみたら、なんだかすこしおこっているみたいだった。なんとなくだけれど、「あいてをするのがたいへんだ」とおもっているようだった。

こういうことは、すきではない?それじゃ、どうしたらよろこんでくれるのだろう?もしかして、おっぱいじゃないと、まだたべられないのかな?でも、かなは、おっぱいがでない。

「おかあさん。ユキちゃんにおっぱいをあげてほしいの」

「ばかかおまえは。そんなものはない」

 

かなは、まいばんユキちゃんと、かながあかんぼうのころからいえにすんでいるミッキーマウスのともだちの「ミニ子」ちゃんと、うさぎのぬいぐるみの「さちこ」といっしょにおふとんに入ってねむっていた。どうしようもなくさびしくて、でも、となりにねているおかあさまはおなじおふとんのなかには入れてはくれなかった。

どんなにさむい日も、ふとんのなかのすきまからつめたいくうきが入ってきても、それはやめられなかった。なので、かなは、よくかぜをひいていた。

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