私が貴方を守るから

ちくわは好きでもちくわぶはちょっと…

第1話 忘らるる 身をば思はず 誓ひてし

 その日はこれから先、一番大切で温かくて、幸せな日になるはずだった。最愛の人と一つになれる、ずっと願っていた家族になれる日。あの神が私達の元に来なければ、そうなるはずだった…


 今日はずっと待ち望んでいた結婚式の日。私が生まれたときから家族がいなくて、親族を呼ぶことができないからって理由で2人だけのこじんまりとした挙式になった。ずっと天涯孤独だった私に家族ができる。この喜びはきっと天をも超すだろう。

 そんな事を考えながら、目の前の鏡を見る。純白のドレスに身を包んだ私。ずっと憧れていたこの衣装を着ることができて、私の幸福値は最高潮に達していた。

 コンコン。

 「はーい!」

 夫のウェイドが来たようだ。まだしっかりこの姿を見せてないから見に来たのかも。

 「ドレス、見に来たよ。どんな感じ??」

 「目をつぶっててね!?驚かしたいから!」

 「わかったよ。」

 しょうがないなと笑いながらも、幸せそうな彼の顔。それがもう愛おしい。

 「じゃん!どうかな…?」

 「ッ……。」

 「ウェイド…?」

 「最高に可愛い。こんな美しい女性と結婚することができるんなんて。僕は幸せ者だね。」

 「褒めすぎよ!私だって貴方みたいな人に会えたのが奇跡としか思えないわ。」

 そう。これは運命の導き。この運命が私達を引き裂くことを、私達はまだ知る由もなかった。

 

「新郎様、新婦様。そろそろお時間です。ご移動をお願い致します。」

 スタッフの方が最終確認のために部屋に入ってくる。もうすぐ式だ。

 「じゃあまたね。」

 「うん。また式でね。」

 ついに、結婚式が始まる。


 「夫ウェイド・クロノスはこの女、シエラ・アイオーンを妻とし、生涯愛することを誓いますか?」

 「はい。誓います。」

 神に誓う。私は絶対にこの人を守る。私達の幸せは絶対に守り抜く。

 そう心の中で誓っていた時、今まで感じたことのないほどの揺れが起こった。まるで、全てがひっくり返ったかのような、この世のものでないものが降臨したかのような。

 

『大事な祝言の日にすまないね。けれど、この式は我々が止めさせていただくよ。』

 突然、まばゆい黄金の光を纏った大きな人型の「ナニカ」が現れた。そして、私はその「ナニカ」を知っている。ずっと前から。

 「お前たちは誰だ?!」

 「なぜ私達の式を邪魔する?!」

 『それについては、隣の彼女に聞いた方がいいと思うよ。彼女と私たちは、彼女が生まれた時からの縁だからね。』

 「なんだと?シエラ!どういうことか説明してくれ!」

 (言わなければ。でも、言ってしまったらきっと…)

 『すまないがもう時間がないんだ。これ以上下界にいてしまうと、人間どもに見つかってしまうからね。』

 『それに、時の神の力を持つもの同士が結ばれてしまうと、こちらとしては困るんだよ。せっかく処理したのに、また復活されても困るからね。』

 (どういうこと?彼もあの力を持っているの?そんなこと一言も…)

 「ウェイド!あなたもあの力を持っていたの?なんで言ってくれなかったの?!」

 「あの力ってなんのことだ?僕は普通の人間だ。」

 『ふむ…。まだ君は自分の力を自覚していないんだね。なら、処理が楽だ。ウェイドくんと言ったかな?君は私たちと来てもらうよ。』

 「なに!?なにをするつもりだ。お前らのような正体不明の奴らとシエラを置いていくわけないだろう。」

 『なら仕方がない。あまり乱暴はしたくなかったが…。この者を拘束しなさい。一緒に連れて行く』

 『御意。』

 「ナニカ」の中のでも一際目立つリーダー格の紳士風の男が周りにいるものに指示を出す。彼らが一斉にウェイドを囲み、半透明な立方体の中に入れた。

 「やめて!!彼を連れて行かないで!!」

 『すまないねぇ。恨むなら、君の運命を恨むんだね』

 リーダー格らしき男が、ウェイドの入った立方体に触った瞬間、圧縮されたかのように小さくなり、その男のポケットに収められた。

 「返して!!彼を返しなさい!!返してよ!!」

  私の抵抗も虚しく、ウェイドは黄金の霧と共に消えた。式場には取り残された私と、なにが起きたのかわからず慌てるスタッフしかいなかった。その瞬間、隣にいて欲しかった彼は、そこにはいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私が貴方を守るから ちくわは好きでもちくわぶはちょっと… @chikuwa243

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ