聖なる夜のサンタの恋

Rotten flower

第1話

ガサゴソという音が部屋の中で響く。寒い部屋、深く被った布団を少し動かして音の方向へと顔を向けた。

赤い服を着た女性が部屋へと入ってくる。私は枕元にある電気のリモコンで部屋を明るくする。


「えっと……。」

女性、見たところ親など私の見知った人ではないようだ。所謂サンタのような服を着ている。丁度明日がクリスマスだったっけ。

「どうやってこの家に入ってきたの?」

私にはそれがやけに気になっていた。

「えっと、君はサンタさんのこと信じてる?」

「う〜ん……。」

正直なことを言えば信じていない。のだが、少しばかり信じたいという感情はある。要は曖昧なラインなのだ。

「サンタさんってね、実は一人じゃないんだよ。」

彼女による説明だとサンタさんとはこんな感じらしい。

・複数人がエリアごとに分担して運送している。

・男女どちらでも応募できるものの男性比率が高い。

・求人自体はあるものの「高収入」「簡単」などといった怪しい言葉ばかりである。

・サンタの集会がある。


「で、興味本位で応募してみたらこんな風に……。」

彼女の服は母親が着るようなコートではなく、少しばかりの露出があってあまり冬に着る服ではない。サンタの衣装とはそういうものなのだろうか。

彼女はプレゼントを置いていくと部屋の外へ出て帰ろうとしたので、ぎゅっと裾を掴んだ。

「……お姉さん……急がなきゃなんだ。」

「……嫌だ……もう行かなきゃいけないんだったらついて行く。」

彼女は少し黙ったのち少し微笑んでこう言った。

「……わかった。お姉さんからのプレゼントってことにしておくね。」


冬、雪が降っている街中を空から見下ろす。住宅街の天井は白に染まっていた。

トナカイは空をすいすいと走っている。

「どう?綺麗でしょ?」

お姉さんも少し明るそうな声色で語りかけてくる。

「うん、綺麗。」と返した。彼女は笑顔で街を見下ろしている。

「もしかしたら、私来年もサンタさんやるかも……なんちゃって。」

「お姉さんクリスマス暇なの?」

そういうと、お姉さんは少し躊躇ったあとに、

「……そうなんだよね……。20代入ってこんな現実逃避、何やってんだろって。」

空を見上げた。

「さて、プレゼント届けてくるね。」

そういうと、思ったより小さめな袋をもって家へと入っていった。


「あと何軒回るの?」

「結構ハイペースで回ったからあと1,2軒くらいかな。まぁ、君の家が終わったあとは少しスピードは落ちてるけど。孤独だったしいいんだけどね。」

お姉さんが少し浮かない顔をしている。

「なんでそんなに急いでるの?」

「いや……なんでもないよ。」

嘘の微笑みを見せた。

「ねぇ、本当の理由は?」


「さっき、サンタさんに集会があるって言ったじゃん。

そこでさ、興味の男性が居たんだよね……。」

少し照れながら言う。流石に女の子に言うったって恥ずかしい。

「……恋愛?」

女の子が言った。やっぱり恋愛に対してピュアな興味を持つ年頃なのだろうか。学校でも恋愛とか流行ってる時期あったなぁ。茶化すような感じだったけど。

「告白しちゃえば?」

「軽く言うなぁ……。」

子供の頃の恋愛と今の恋愛はぜんぜん違うと時々感じる。やっぱり恋愛に対する向き合い方というか何かが違うのだろう。

「私だって学校で好きな人いるけど、告白したよ?」

「だから、重たさが違うんだって……。」

若い頃、それこそこの子と同じくらいの頃も私には好きな人が居た。クラスの中での印象は中央人物、私は教科書を持って顔を隠すような陰キャだったからあまりにもつりあわなかった。

結局、実らないままに別々のクラスになってしまった。中学では一度同じクラスだったことがあるがその頃も私は変わらず陰キャだったっけ。

今ではこうやって、少しは明るくなったもののやっぱり対人関係は怖い。

でも、ここで勇気を出さなかったら生涯後悔するような気がする。だって、ここまでこうして攻めれなかったことがあって、これがもしかしたら最後のチャンスかも知れない。

「……さて。」

次の家につく。袋はいかんせん軽かった。


9歳の少年、枕元にプレゼントを置く。袋は空になって仕事の終わりを告げた。

そりに戻ると、空になった袋を見て少女は言った。

「これで終わりかな?」

「うん。」


目が覚めると窓の外は太陽が沈みかけていた。枕元にプレゼントがあった。

「おい、柚木ゆずき。今から出かけるから準備してくれ。」

お父さんの声がした。

急ピッチで着替えと用意を済ませる。

近くの商業施設には人がごった返していた。

どこか見たことがある顔が向こうから男の人と歩いていた。笑顔だった。

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