僕の営業、ガッカリ営業!

崔 梨遙(再)

1話完結:1100字

返報性の法則、

相手から何かを受け取った時、お返しをしないといけないと思う心理。



 営業で、僕は結構小細工をする。セールストークも考える。資料を集めまくる。要するに、多分、自信が無かったからだ。だから、準備に時間をかける。


 そして、僕には“理想の営業の姿”があった。カッコ良くプレゼンして、カッコ良く取引をするのだ。その為に僕はあらゆる小細工をした。


 トークも考えた。まずは初頭効果(最初の情報や印象が強く記憶に残る心理)、いかに掴むか? 掴みを考える。漫才と似ている。最初にグッと相手の関心、興味を惹かなければいけない。事前にシミュレーションしていた。主に、往きの電車の中などで考えた。そして親近効果(最後の情報が印象に強く残る心理)、ラストのトーク、爪痕を残さなければならない。何を言ったら印象に残るだろうか? これも考えた。移動の電車や、前日の夜に何度もシミュレーションした。初頭効果と親近効果は就活の面接にも共通することかもしれない。


 そして商談。前半は相手の言うことを聞くようにする。そこで、課題と課題の解決方法を考える。そのため、常に複数の企画・提案書をカバンの中には入れている。後半になって、こちらからの提案を聞いてもらう。そこだ! プレゼンをビシッと! ここはカッコ良くありたい。


 ところが、時々言われるのだ。


「崔さんには、何度も来てもらってるし、貴重な資料を持って来てもらってるからね、じゃあ、取引するよ」


 NO! ノー! ノー! それだと返報性の法則になってしまうのだ。僕は、“いつも来てくれているから”とか、“いつも来てくれているのが申し訳無いから”などという理由で取引をしたくないのだ! 僕は、“崔さんの提案が素晴らしいから”などと言って、プレゼン力を評価してもらいたいのだ。社長に話したら、“それも営業力の1つや!、返報性の法則でもええやないか!”と言われたが、僕は納得出来ない。


 僕が目指す営業の姿ではない、それが僕の営業。ただ、よく“売ったら、もうフォローしない”という営業マンが多い中、僕は売った後もフォローを欠かさないので、そこで評価されることも多々ある。僕は売り逃げはしない。お客様から、“崔さんは、ちゃんとフォローしてくれるから良かったよ”と言ってもらえることが多かった。これはいい。この評価は、褒め言葉としてありがたくいただく。



 だけど、あれだけの小細工をしてプレゼンして、“いつも来てくれるから”ってどうなの? 僕は、最後まで自分が憧れていた営業マンにはなれなかった気がする。悲しいけれど、仕方ない。今世は諦めた。来世に期待したい。







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