最後の放送

ソコニ

第1話

「お客様の人生を、最高の娯楽に変えます」


巨大配信会社の会長が、私たちに告げた。

全員が借金まみれの番組制作者だ。


「勝者には100億円。敗者には、永遠の放送権剥奪です」


ルールは簡単。

最高の視聴率を記録した者が勝者となる。

ただし、自分の人生をそのまま配信しなければならない。


「つまり、視聴者を楽しませるため、自分の人生を賭けろということですね」

誰かがつぶやいた。


競争は過酷を極めた。

ある者は危険な場所に飛び込み、ある者は他人の不幸を笑いに変え、またある者は自分の不幸すら娯楽として売り出した。


視聴率は跳ね上がり、人々は自分たちの人生に夢中になった。


最終日、残された参加者は私一人。

他の制作者たちは、文字通り人生を失っていた。


「おめでとうございます。あなたの勝ちです」

会長が告げる。


その時、モニターに意外な数字が映った。

全世界の視聴率が突然ゼロになったのだ。


「実は」と会長が告白する。

「このゲーム自体が番組でした。視聴者は、制作者たちが人生を壊していく様子を楽しんでいたのです」


「では、なぜ視聴率が...」


「人々は、あなたが最後まで普通の生活を守り通したことに飽きてしまった。誰も、幸せな人生なんて見たくないのです」


私は会長に尋ねた。

「では、賞金は?」


「それはありません。しかし、あなたには本物の人生が残っています」


翌日から、世界中で新しい視聴率競争が始まった。

今度は視聴者たちが、自分の人生を配信し始めたのだ。


私は時々、画面の向こうで必死に演技する彼らに、こっそりメッセージを送る。


「本当の人生に、視聴者は必要ありません」


(おわり)

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