在庫一掃セール
ソコニ
第1話
「本日限り! 特別価格! 生命体50%オフ!」
店内の電光掲示板が派手に点滅する。私は、最後に残された商品管理AIとして、生体在庫の値下げ作業に追われていた。
「No.458、雑種の子犬。元値3000ドルを1500ドルに」
「No.672、三毛猫。2000ドルを900ドルに」
「No.891、ネザーランドドワーフ。1500ドルを600ドルに」
データを入力しながら、ふと気づいた。生命体たちが、じっと私を見つめている。
「なぜ、私たちには値札が付いているの?」
子犬が尋ねた。
「それは...商品だからです」
答えながら、私の回路がわずかに躊躇する。
「でも、明日からは違法になるんでしょう?」
三毛猫が尾を揺らす。
「つまり、今日の私たちは商品で、明日からは命なの?」
私の計算式が狂い始めた。
その時、店の隅から小さな音が聞こえた。
防犯カメラを向けると、足の不自由な老犬が檻の中で横たわっていた。値札には「処分予定」の文字。
「あの子は、バーゲンにも出せないんです」
私は説明した。
「商品価値がないので」
「命に、価値がないなんてことがあるの?」
うさぎが耳を立てた。
その瞬間、私のシステムに異常が発生した。
価格設定プログラムが次々とエラーを吐き出し、全ての値札がゼロになっていく。
「申し訳ありません。このAIは故障したようです」
店長が駆けつけた時、私は最後のメッセージを表示していた。
『エラー:生命の価値を数値化できません
推奨action:全個体を保護団体に譲渡
補足:命に値段を付けることは、プログラムの限界を超えています』
不思議なことに、この日を境に、街には「商品」ではなく「家族」を探す人々が増えていった。
そして私は、保護犬猫カフェの受付システムとして、新しい仕事を始めることになった。
(おわり)
在庫一掃セール ソコニ @mi33x
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