鎧2・冒険者(仮)ですわ!!

屋敷から追い出されてどれくらい経ったのかしら、普段こんなに歩いたりしないから疲れてきましたわ……

通りすがりの馬車にでも乗せて貰おうとも思いましたけれど、こっち見ると全部逃げていくし……

唯一の救いは、この鎧全く重くないってことかしら、歩く度にガシャンガシャン五月蝿いこと、この上ないですけれども。


今歩いてる街道の先にはファースティンの街がある、そこそこ大きな街で私もお父様に連れられて訪れたことが何度かありますわ。


「あ~遠いですわ~まだかしら……」


馬車だとそこまでかからなかったはずですけど……

歩き続けていると看板が立っていた、ファースティンまでこの先二時間程。


……と、遠いですわ……


街道の端で休憩を取りながら進んで行くと、ようやく街が見えてきましたわ。

入口まで辿り着くと門を潜って中へ。門番の兵士がこちらを見てますけど……特に話しかけてはきませんわね、見られるのはもう慣れましたわ。


さて、総合ギルドは確か街の中心部だったはず、門から中央へと続く大通りを歩いていくと、程なくして大きな建物が見えてきましたわ。

往来が多かったですけど、対面から歩いて来る人達全て道の端へ避けて行くので移動は楽でしたわね。


入口の上には『総合ギルド』と書かれている看板が、ここで間違いないですわ。

中に入ると正面に受付のカウンター、そして若い女性の職員が一人。

周囲には色んな方々が居ますわ。

受付の前まで行くと、職員が対応する。


「いらっしゃいま……せ……」


笑顔であるものの顔が引きつっている、まあ無理もありませんわね、こんな風体の者がいきなり現れたら普通そうもなりますわ。


「ほ、本日はどのようなご用件でしょうか」


何とか声を振り絞ってますけども声が震えてますわ。


「何か仕事はありませんかしら?簡単なのがいいのですけれど」


今まで仕事なんてしたことも無いので私でも出来る物がいいし、楽なのがしたいですわ。


「え、じょ、女性!?……あ、し、失礼しました、お客様は冒険者でしょうか?」


男性と思われてたみたいですわね……まあいいですけど……


「……冒険者?いいえ?」


仕事すらしたことが無いのに冒険者なんてとんでもないですわ。


「あ、そ、そうですか……てっきり上位の冒険者かとばかり……そうしますと……今ですとドブ掃除業者くらいしか斡旋出来そうにないですねぇ……」


「ど、ドブ!?」


ドブ掃除!?私がドブ掃除!!?


「ほ、他には無いんですの!!?」


「最近人が増えてきてて、空いてる所がありませんでして……冒険者の方なら魔物退治とか任せられるのですが」


……ま、魔物退治とか、それこそ無理に決まってるのですけれど……

とはいえドブ掃除……しかも脱げない鎧を着たままで……?

暫く考えて……決めましたわ。


「ど、どういたしますか?」


沈黙に耐えられなくなったのか職員が聞いてくる。


「冒険者になるにはどうしたら宜しいのかしら?」


「冒険者ですか?でしたらここの奥にある冒険者ギルドで手続きを行えば直ぐに登録出来ますが……」


成程、意外と簡単ですのね。


「分かりましたわ、ありがとう」


「あ、これをお持ちください、館内の通行証となっておりますので」


一枚のカードを手渡される、表はファースティン総合ギルドと記載され、裏には今日の日付が刻印がある、どうやら当日券っぽい。

紐が付いてるので首からぶら下げましたけど、兜のせいでギリッギリ通りましたわ。


奥にへと進むと冒険者ギルドの看板が設置されていて、小さな窓口が三つあった。内二つは先客で埋まっているので中央の方へ。


「いらっしゃ……いらっしゃいませ、本日は依頼の受注か達成の報告でしょうか?」


先程の職員と似たような反応ですわね、まあいいですわ。


「冒険者になりたいのですけれども」


すると周囲がざわつく。


「え?冒険者じゃあないのか?あれが?」


「どう見ても上級……いや超級じゃあ?」


「何て禍々しさだよ……背筋が凍るぜ……」


……聞こえないふりをして話を続けますわ。


「ぼ、冒険者登録……ですか?登録証を紛失したとかではなく……?」


「登録ですわ」


ずいっと前のめりになって念を押す。職員は慌てて手元から用紙一枚とペンを取り出して私の前に置いた。


「で、ではこちらに氏名、出身地の記載、それと登録料に銅貨50枚を頂かせて貰いますが宜しいでしょうか」


え~っと……財布は……あ。

しまった、ドタバタしてたから財布持って来てませんわー!!

どうしようかとワタワタしていると。


「あ、もしかして手持ちが御座いませんか?でしたら一旦仮登録して頂いて、後日お支払して下されば本登録出来ますよ。仮登録は期間短いですが、簡単な依頼であれば受注できますので、それで稼いで貰えれば」


「まあ便利ですわね、ではそれでお願いしますわ」


「畏まりました、それではこちらへ記入をお願いします」


ササっと書いて渡すと内容を職員が確認を行う。


「はい確かに、それではこちらが仮の冒険者証です、期限は一週間ですのでお気をつけ下さい。再発行の際は追加で同額となりますのでご了承頂けますよう」


白く塗られた金属のカードが手渡される、通行証同様紐が付いてますわ。


「依頼は右にある掲示板に貼ってあるので、そちらから受けたい物を剥がしてこちらの窓口へお持ち下さい。それでは以上となりますが何か質問等はありますでしょうか」


「いえ、大丈夫ですわありがとう」


右手を振って窓口から離れた。

取り敢えず冒険者(仮)になれましたわ、さて、依頼を探してみましょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る