フルアーマードお嬢様は鎧を脱ぎ捨てたい
トイレの花子
鎧1・脱げないですわ!!
馬車が通れるくらいには広く、舗装がされている街道を行き交う人々が『それ』をチラリと見ては通りすぎて行く。
皆が皆怯えているようにも見える中、ガシャンガシャンと音を立てて人のような物が歩いていた。
全身鎧、頭の天辺から足の先まで、余すところなく重厚な金属プレートで包まれており、兜に横一文字の穴があるくらいである。
所々刺やら角が付いていて、色が全体的に黒いので禍々しさが凄まじい。
「……ふ~」
重々しい、地獄の底から溢れ出すような溜め息を吐き出し立ち止まった。
周囲に居た者達は恐れて遠目に離れて避けるように通りすぎる。
「どうしてこうなったんですの……」
……
…………
私は16回目の誕生日を向かえた。
方々からの届け物を自室にて一つ一つ確認していく。大小様々な箱が積まれていて、綺麗に包装がされていますわね。しかしこれ全部取り出すのは手間ですわ……使用人達にも手伝わせるべきだったかしら。
半分くらい終わって次の箱へ手を伸ばして開封する。
……何ですの?これ?……籠手……?
中から取り出して眺める、真っ黒で刺が沢山付いていて………何と言うか、趣味が悪すぎませんこと?一体誰がこんな物を……
まあいいかと次の箱へを開けようと思ったけれども、何故か気になり……気まぐれに右手に装着してみる。
「あら、ピッタリですわねこれ」
ピッタリ過ぎて何か気持ち悪さが込み上げたとき……籠手が黒く光った。
「え、な、何ですの?」
一瞬目眩がして視界がグニャリと曲がり、治まった。
もう一度籠手を見るも、特に変わったことも無く……き、気のせいかしら?
ふと視線を上げると部屋にある大きな姿見の鏡が目にはいる、と。
そこには鎧が椅子に座って居た。
全身が籠手と同じく真っ黒で、こちらに向いている。
「ひぃ!?」
思わず悲鳴を上げ立つと、それも同じように立ち上がる。
「こ、来ないで!!」
襲いかかってくると思いたじろぐと、同様の動きをした。
「……?」
特に何かしてくるようでは無いみたいだけど……
じーっと見てても動こうとしない、何となく手を振ってみると、同時に振り替えしてくる。……ま、まさか……?
ゆっくりと歩み寄ると向こうも歩く。
「これ……私ですの?」
こちらと同様に動いてるし、よく考えたら鏡である故当然だけど……
「何故こんな格好を……?」
鎧を着た覚えなんてありませんわ、籠手なら着けましたけど……
まあ良いですわ、こんな趣味悪い鎧なんてさっさと脱いでしまいましょう。
脱ごうと思ってふと思う、これどうやって脱ぐのかしら?
……ちょっと考えて……とりあえず手からかしら。
左手を右手で手袋を外すように取ろうとするけど……え、何ですのこれ、取れませんわよ……?
グイグイ引っ張ってもダメ、何かに引っ掛かってる訳じゃないのに…………
「脱げないですわ!!」
押しても引いても叩いてもダメ、びくともしませんわ!?
悪戦苦闘していると、コンコンコンと扉がノックされて開く。
「お嬢様、失礼しま……」
執事のセバスが入って来て、目が合った。
お互いに微動だにせず沈黙。
「く、曲者!!」
ハッとしてセバスが胸元から短刀を取り出して構える。
「違いますわ!!私ですわ、アーデルハイトでしてよ!!アーデルハイト!!」
慌てて静止を促すとセバスは短刀を降ろす。
「そ、その声はお嬢様……!?な、何故そのような禍……ゴホン、いえ格好を?」
今禍々しいって言いかけまして?まあ良いですわ。
「私にも良く分かりませんわ、贈り物にあった籠手を着けたらこうなったのですわ、ちなみに全く脱げませんのよ、これが」
セバスはふーむ、と唸って少し考えていると頭を上げる。
「と、とりあえず旦那様にご相談いたしましょう、何かご存知かもしれませんし」
お父様か、私への贈り物は毎度お父様もチェックをしているようですし、聞いた方が良さそうですわね。
私はセバスに連れ添われて階下の大広間へと移動、てかこの鎧凄いデカいですわね……縦にも横にも大きくて、背の高さなんてやや長身であるセバスの頭三個分以上ありますわよ……扉から出るのに苦労しましたわ。
ガシャンガシャン鎧を鳴らしながら中央の大階段を降りて大広間に到着、階段が降りにくいったらありゃしませんわ、転びそうでしたわ。
「失礼します」
セバスが大広間横にある執務室の扉を開けて中に入る。
「うむ、どうした?何かあった……の……」
椅子に座って書類を整理していたお父様がこちらに向いて、硬直した。
「……そ、その後ろのは……?」
まあ、こんなデカくてゴッツいフルアーマー入ってくればそうもなりますわよね。
「え~……そのですね……こちら、中にお嬢様が入っておりまして……」
「あ、アーデルハイトが!?な、何故そのような禍々、……ウオッホン!!鎧に?」
まーた禍々しいって……まあそうなんですけど、否定はしませんわ。
「え~っとですわね……」
私はお父様に事の顛末を説明すると、ウムムと唸り。
「そのような事が……う~む、よもや予言書に書き記された通りになるとは……」
予言書?何のことかしら、お父様は続ける。
「我が当家には代々予言書が受け継がれていてな、それにはこう記されているのだ。『フルアーマー纏いし者現れたとき、その者覇道を極めん、覇王に一切の温情を与えず』と」
は、覇道?覇王?な、何ですのそれ。後、温情を与えず……?
意味が分からず困惑しているとお父様が涙を流し始め、私の両肩を掴んだ。
尖った刺が刺さりそうなんで、そーっと。
「すまんアーデルハイト、どうやら予言書によると、お前は覇王となる事が運命付けてれていたようだ、そのフルアーマーが何よりの証拠!!」
え、っちょ、お待ちになって!?どういうことですの!!?
お父様は尚も続ける。
「これよりお前は覇王になる為にこの家を出ていかねばならん、温情を与えてはならんからだ……許せアーデルハイト、これは試練なのだ!!」
「ああ、お嬢様……何とおいたわしや……」
セバスまで泣き始めましたわ……
「そういうことでだ、今からお前はこの敷地を跨ぐこと叶わぬ、また支援も一切してやれぬ……すまんな……」
ハンカチで涙を拭い机にあるベルを鳴らすと、屋敷内の使用人達が入って来る。
「せめてもの情け、皆でアーデルハイトを送りだそうではないか、さあ旅発つのだ!!」
皆に押されて屋敷から出されていく。
「ちょ、ちょちょ、待って、そもそもこの鎧どうやって脱ぐんですの!!?」
「ワシにも分からん!!」
屋敷の門がゆっくりと閉まって私は完全に追い出された。
門の内側では全員が涙ながら手を振っている。
「この先の街道を進んで街に着いたら総合ギルドに行くといい、簡単な仕事位は見つかるだろう、達者でなぁ~」
お父様が大きく手を振って……暫くしたら屋敷にゾロゾロと戻って行った。
残っているのは私のみ。茫然と立ち尽くしていたが……どうしようもないのでその場を後にし、カラスがカーカー鳴く中ガシャンガシャンと歩き始めたら。
途中、鎧が外せないか色々試してみたが、やっぱり駄目だった。
「脱げないですわ!!」
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