モンスターハンター定年退職

ソコニ

第1話

「お疲れ様でした! これにて、あなたは S級ハンターを定年退職となります」


ギルドの受付嬢が笑顔で告げる。私は黙って首を縦に振った。


四十年間、数えきれないモンスターと戦ってきた。村を襲う古龍を倒し、時には世界の危機すら救ってきた。


「ところで」と受付嬢が続ける。「引退後の生活設計は?」


「ああ」私は苦笑する。「畑でも耕そうかと」


その夜、自宅で長年の思い出の品々を整理していると、配信が入った。見ると、若いハンターたちが新種の古龍と戦っている様子が映し出されている。


動きが遅い。隙だらけだ。このままでは全滅する。


思わず画面に向かって叫びそうになった時、私は気づいた。彼らの装備が、どこか見覚えがある。


「まさか...」


慌ててギルドに連絡すると、案の定だった。


「はい、実は彼らはAIハンターなんです。あなたの四十年分の狩猟データを学習していまして」


「なぜそんなことを?」


「現代の若者は、危険な仕事を避けるんです。でも、モンスターの脅威は続いている。だから...」


画面の中で、AIハンターたちが次々と力尽きていく。


「待ってください」


私は装備を手に取っていた。


「最後の指導者として、プログラムの修正を手伝わせてほしい」


受付嬢は目を丸くした。


「まさか、現場に?」


「ああ」私は得意の大剣を背負いながら答えた。「畑仕事は、もう少し先でいいだろう」


数日後、ギルドの求人欄には新しい張り紙が出ていた。


『募集:AIハンター育成トレーナー

条件:定年退職したSランクハンター限定

待遇:優遇』


(おわり)

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