アルバイト募集中

ソコニ

第1話

「時給2000円! 未経験者歓迎! 楽な仕事です!」


私は路上の電子広告をぼんやり眺めていた。すると突然、広告が私の視線を捉えたように明滅し、声をかけてきた。


「あなた、そう、あなたです。履歴書不要、即日採用可能ですよ」


就職活動に疲れていた私は、つい足を止めた。


「仕事内容は?」


「簡単です。当店のAIが不完全なんです。お客様の『本当の気持ち』を読み取れない。そこをあなたに補完してもらいたい」


そう言って広告は、私を地下の小さな店舗へと導いた。


店内には、ロボットの店員が一台。客が「いらっしゃいませ」と言われても、表情一つ変えずに商品を手に取る。ロボットは困惑したように首を傾げている。


「あの客は、実は接客が煩わしいと思っているんです」


私が言うと、ロボットは「なるほど」と相槌を打ち、その客への声かけを控えめにした。客の表情が、わずかにほころんだ。


「今度はあの客」


エネルギードリンクを手に取った客を指差す。


「徹夜続きで、でも仕事を休めない。体調は最悪です」


ロボットは即座に、栄養バランスの良い食事セットとビタミン剤を勧めた。客は驚いたような、でも少し救われたような表情を見せた。


一週間後、私の仕事は突然終わりを告げられた。


「お疲れ様でした。あなたの『本当の気持ち』を読み取るデータが充分集まりました」


広告が私に告げる。


「実は、補完が必要だったのは店のAIではなく、次世代AIの感情認識エンジン。あなたの共感力を学習させていただきました。ご協力ありがとうございました」


給料と契約終了通知を受け取った私は、なぜか少し寂しい気持ちになった。そして気づいた。広告は、私のその気持ちも、もう完璧に理解しているのだろうと。


(おわり)

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