第3話

「総員、第一種戦闘態勢を発令。耐ショック防衛システム起動」


警報とともに艦内に非常アナンスが鳴り響く。

艦内が急に慌ただしくなってきた。


え、どうゆうこと? これ訓練じゃないの?


「おい、ジル!! こんなところに居たら危ないぞ」


攻撃隊副長のジャックが僕の首根っこをつかんで連れて行こうとする。


「い、痛い。痛い。そんなことわかっていますよ」


僕はジャックの手を振り払って彼についていった。


「ジル、お前はまだパイロット訓練生なんだぞ。本当なら実戦に出ていい立場じゃないんだ。少しは自覚しろ。早死にするぞ」


ジャックは冗談交じりにそう言った。


「ジャックだって訓練生だろ。ただ痛いって言っただけじゃん」


そう言いながら、ジャックと一緒にパイロット控室に入っていった。


「僕の名前は『ジル・ベイヤー』、みんなからは『ジル』って呼ばれている。出身はグリーンムーンのゴーラル州都テンマホークで、先月グリーンムーン軍の訓練生になったばかりなんだ。内地勤務を希望したんだけど人員不足ということでこの艦、えっと『揚陸艦チャレンジャー』勤務になったんだ。で、隣にいるのが僕の同僚のジャック。実はくじ引きで負けて副長になったくせに威張っているんだ。ホントお調子者なんだよ」


「お前、なにひとりでゴチャゴチャ言っているんだ。第一種戦闘態勢が発令されているんだぞ。もっと緊張感をもて」


パイロット待機室には僕らのほか十人ほどが集まっていた。全員訓練生なんだが、現在任務中で出撃している攻撃隊長のスチュアートさんからは今回の任務は大したことがないからと説明を受けているから、この緊急警報も訓練なんだろうなと思っていると、すごい轟音と振動が僕らを襲った。


なんだろう。地震? 宇宙だから地震はないよな。なになに。


僕が戸惑っていると、ミゲル副艦長が指示をしてきた。


「敵旗艦空母チャールストンの撃沈に成功したらしい。お前ら出番だぞ」


「えっ、これ訓練じゃないんですか。いきなりなんて、ひどいじゃないですか」


副長のジャックが泣きべそをかきながらミゲル副艦長にしがみついている。みんな同じ気持ちだ。


「ここは最前線の敵拠点ハイランドにほど近い宙域だ。つまり、さ い ぜ ん せ ん なんだよ。なにを甘いことを言っているんだ」


ミゲル副艦長は訓練生のみんなを叱咤してパイロット待機室を出ていった。

僕らは救助船に無言のまま乗り込んだ。


こんな状況でおしゃべりできる強心臓なやつなんているわけないよな。


そう思いながら、救助船の窓から外を眺めていると、敵空母の残骸だろうかどうかも分からないが、なんか黒い物体がたくさん現場から流れてきている。


「もうすぐ現場に到着だ。さっさと用意しておけよ」


救助船の操縦者は事務的にそう言った。

救助船が空母だったらしいモノの近くまで来て救助活動を始めるようにジャックに指示された。

たくさんの遺体が散乱し、空母も原型をとどめない状態だった。

みんな嘔吐してしまっていた。

訓練生は僕も含めてみんな初めての戦場だったから。

僕は担当する場所まで行ったがその場でへたれ込んでしまった。

しばらくボーっとしていると目の端で動くものがあることに気が付いた。

僕は急いでその場所まで行き、救助活動を行った。


え、これ動いている。人じゃないの?


そう思って、残骸をどかすと民間人の女性がいた。


やばい。酸素マスクをつけなきゃ。


そう思い、その女性に急いで酸素マスクをつけた。

そして、とりあえず持ってきていた救助カプセルに放り込んだ。

そこで、また力尽き、へたれこんだ。

しばらくすると、ジャックが肩をゆすり、音声通信してきた。


「黒騎士がきた!! 急いで救助船に戻るように指示が出たぞ。それ一緒に持ってやるからさっさと行こうぜ」


ジャックは救助カプセルを指さして言った。

救助船に戻ってくると、すぐにチャレンジャーに向けて救助船は飛び立った。

救助船のモニターには黒騎士とやりあうスチュアート攻撃隊長が映し出されていたがアッという間に撃墜されてしまった。


「やはり黒騎士相手では荷が重かったね。仕方ない。我々に逃げる時間を与えてくれたと感謝しかないよな。うあ〜〜、こっち来た!!」


救助船の操縦者が叫んだ。黒騎士はこの救助船の周りを二度旋回してチャレンジャーに向けて飛んで行った。その後、再び旋回してどこかへ飛んで行ってしまった。


「助かった。どんな事情で見逃してくれたかわからんが、黒騎士に狙われたらチャレンジャーでも撃沈されていただろう」


先ほどの操縦者が続ける。

そのまま無事に揚陸艦チャレンジャーまで到着した。

医療班が急いで救助カプセルを運んで行った。


あの人無事ならいいんだけど。あれ、救助カプセルは一つだけだったぞ。ということはほぼ全滅だったということ? そうだよな。空母自体が原形を留めていなかったのに人が生きているって方がおかしいよな。


「パイロットチームは待機室で指示があるまで待機だぞ」


ミゲル副艦長が指示してブリッジのほうに行ってしまった。


あれ、いつもは訓練生呼びだったけど、パイロットに昇格してしまったの。

やだよ、黒騎士こわいよ。


そんなことを考えていると待機室に到着した。

全員泥の様に眠ってしまった。

肩をゆすられる感覚で僕は目を覚ました。


「アイルさんが目を覚ましました。ついてきてください」


医療班の人に言われ、医務室までついていった。


「アイルさんの身体は重傷ですね。でも時間をかけて手術と治療をすれば完治できるくらいです。それから、軽い酸素欠乏症に陥っており記憶に障害があります。あ、心配しないでくださいね。昔ならいざ知らず、今は時間が解決してくれるものだから」


医療班の人はそう言って、医務室のドアを開けようとした。


「あの人はアイルさんって名前なんですか?」


僕がそう尋ねると


「本人は名前も覚えてないけど肌着にアイルって書いてあったから仮称でアイルさんと呼んでいるのよ。アイルって言うのが名前とは限らないんだけどね。名前ないと呼ぶときに不便でしょ」


そう言って、ドアを開けたので僕は一緒に医務室の中に入っていった。


 アイルさんはベットに寝ていたが、意識ははっきりしており目だけ僕のほうへ向けて話しかけてきた。


「君がジル君か。世話をかけてしまったね。ありがとう」


アイルさんは照れ臭そうに笑った。うゎっ、すごい美人さんだ。


僕は緊張しながらもアイルさんに話しかけた。


「アイルさん、無事で本当に良かったです。何か要望があればなんなりと言ってください」


「ああ、そうさせてもらうよ」


うゎっ、すごいカッコいい。こんな人みたいになれたらモテるんだろうなと思いながら


「公務がありますのでこの辺で失礼します」


そう言うと、アイルさんはフフッと笑い手を挙げて応えてくれた。

カッコよすぎて間がもつわけないよと思いながら医務室を後にした。



 敵空母撃沈から一か月ほど経った頃、僕たちは同盟しているブルースター軍の新型巨大戦艦の観艦式に参加するためにブルースターの衛星サリオスに向かって航行していた。


「ジル、最近パイロットとしてメキメキ頭角表しているそうじゃないか」


アイルさんは僕の頭に手を当て、髪をくしゃくしゃにしながら、からかってきた。


「アイルさんのアドバイスのおかげですよ。本当にありがとうございます」


「本人に素養がなければどうにもならんだろ」


アイルさんはひょっとしたらパイロットだったのかもしれないという疑念はあるが、パイロットだったとしたら、なぜ攻撃作戦の終了直後に民間人の格好していたのかという疑問も残る。ま、そんなことどうでもいいか。今は僕たちの味方であることには変わらないんだから。


アイルさんに実践訓練を受けて、チャレンジャーに戻ってきたときにミゲル副艦長が来ていた。


「観艦式の際に次世代戦闘機『ホワイトウィング』を七機この艦に配備していただけるそうだぞ。マニュアルをいち早く手に入れたから今のうちに頭に入れておけ。読んでおかない奴には乗せてやらんぞ」


そんなこと言ったって、今はパイロットが六人しか残っていないんだ。どうやったって全員乗らないといけないじゃないか。乗ったら乗ったで黒騎士と遭遇したら撃墜されちゃうよ。


あれ、ミゲル副艦長と一緒にいる人って初めて見る人だな。なんか語尾が変だ。ハハハハハ。


自室に戻って、ホワイトウィングのマニュアルを熟読していて熟睡してしまった。

ドアをノックする音で目を覚ました。

ドアを開けるとアイルさんがいた。

部屋に入れてほしいと言われたので戸惑いながらも、部屋にアイルさんを入れた。


「すまんな。ジル」


「いえいえ、いつもお世話になっておりますので」


「ちょっとな……」


なんか、いつものアイルさんらしくない。何かあったのかな。


「悪いが少し休ませてくれ」


アイルさんはそう言って、その場にしゃがみ込み眠ってしまった。

僕はアイルさんをベットまで移動させて体に毛布をかけた。


何があったんだろう。


アイルさんと密室にいるのも気まずいので、僕は外に出た。



廊下を歩いていると前方がなにか騒がしい。

野次馬のひとりになにがあったのかと尋ねると、彼はこう答えた。


「なんでもミゲル副艦長とハモンズっていう男が喧嘩になり、取っ組み合いをしているところハッチが開いてしまいそのまま二人とも外に吸い出されたらしんだ」


「今、ジャック副長が船外活動をして二人を回収しようとしているんだけど、チャレンジャーの速度が速くて難航しているんだよ」


別の野次馬が話に割り込んでくる。


「じゃ、速度を緩めてもらえば」


そこまで言った時にグレッグ艦長に肩を叩かれて耳元でこう言われた。

 

「『観艦式』に間に合わねえんだよ。そのくらいお前でもわかるだろ」


そう言って、野次馬たちにグレッグ艦長はこう告げた。


「ハイハイ、この件はここまでだ。さっさとジャックを回収しろ。『観艦式』に遅参したら大ごとだぞ」


やがてジャック副長は回収され、チャレンジャーはサリオスに全速力で向かって行った。

まるで何かから逃げるようにして。


 

 突然の軍上層部からの通信にブリッジは凍り付いた。


「『観艦式』は中止だ。貴艦には『レクイエム撃沈事件』の犯人『黒騎士』の追撃を命じる。黒騎士は次世代戦闘機『ホワイトウィング』のテスト機を研究所から奪取してことに及んだと聞いている。わかっていると思うが、このことはトップシークレットだぞ」


そう言って、通信が切れた。


「通信班、黒騎士の現在位置は?」


グレッグ艦長は通信班に尋ねた。


「わかりません」


「はあ? 黒騎士の現在位置も教えずに追撃命令なんてあるわけないだろ。もういい。情報収集班、黒騎士の現在位置は?」


今度は情報収集班に尋ねた。


「わかりません」


「はあ? どうやって追撃すんだよ」


グレッグ艦長はそう言ってしばらくして、不敵に笑ってブリッジを出ていった。


一時間後、グレッグ艦長はすっきりした顔でブリッジに戻ってきて指示を出した。


「これより我が艦は補給基地アルファに向かう。百八十度回頭、微速前進!」



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