第4話
現在、僕たちは補給基地アルファに寄港している。
物資補給がメインだそうだが、観艦式が中止になって次の命令が届くまでここに寄港しているんじゃないかとジャックは言っていた。
あいつの言うことは当てにならないからな。
そんなこんなで今日はアイルさんの買い物のお供だ。
デート? そんなわけないじゃん。
アイルさんと僕ではつり合いがまったく取れないよ。
ただの買い物の荷物係に決まってるじゃん。
「おい、ジル。こっちの買い物袋も持って」
アイルさんに呼ばれた。
ほいきた。ワンワン。
僕は駆け足でアイルさんの元に駆け寄って買い物袋を受け取った。
アイルさんはフッと笑い、僕にこう言った。
「ちゃんと休養はとっておいた方がいいぞ。この後は忙しくなるからな」
ほら、ジャックはうそつきだ。
ひと通りの買い物を済ませると僕はアイルさんと一緒にチャレンジャーに帰った。
はあ、楽しい時間はあっという間に過ぎるんだよなぁ。
艦に戻るとジャックがやってきて、耳打ちしてきた。
「グレッグ艦長がここの憲兵所に呼び出しを食らったみたいだぞ。やっぱりミゲル副艦長のことかなぁ。俺がうまく回収できなかったばっかりに、あんなことになったんだもんな」
僕は苦笑いをするばかりだ。
「それとお前の留守中に次世代戦闘機『ホワイトウィング』が七機納入されたぞ。この件でも大騒ぎだぜ。ブルースター軍なんちゃら研究所のバロックさんって人が指導役としてしばらくこの艦に常駐してくれるらしいぞ」
ジャックはそう付け加えた。
ジャック!! なんちゃらの部分が本当は大事じゃないのか。
補給基地アルファの憲兵所に呼び出されたグレッグ艦長はある男の取り調べに同席するように依頼をされた。
ブルースター軍直属兵器研究所の主任ブルータスである。
「お忙しいところ申し訳ございません。実はブルースター軍直属兵器研究所の主任ブルータスという男を逮捕・留置しているのですが、取り調べに同席していただきたいんです。実はこの男には研究所にあったホワイトウィングのテスト機を黒騎士と呼ばれる男に横流しをしたという容疑がかかっていましてね。グリーンムーン軍の上層部からグレッグ艦長に同席していただくように指示をいただいています」
対応にでた憲兵は丁寧に説明をしてくれた。
なるほどね。上層部はこの男から行き先を聞けって考えているんだね。こちらはもう黒騎士の行き先は特定できているんだけどね。仕方ない。取り調べに付き合ってやるか。
一時間後、取り調べを終えたグレッグ艦長はチャレンジャーに戻っていった。
やっぱり、アイルさんの言う通りだね
グレッグ艦長は揚陸艦チャレンジャーのブリッジに戻ると艦内に向かってアナウンスする。
「総員 第二種警戒態勢発令。本艦は乗組員全員の点呼が完了し次第、補給基地アルファより出港する」
艦内に警報とともにアナウンスが鳴り響いた。
「目標、レッドスター軍拠点ハイランド。微速前進ヨーソロー!!」
グレッグ艦長の指示のもと操舵手が叫ぶ。
揚陸艦チャレンジャーは一路、レッドスター軍拠点ハイランドに向かって進軍していった。
それから数日後、揚陸艦チャレンジャーはライトゲイトの目前まで迫っていた。
ブルースター軍直属兵器研究所のバロックさんが研究所に突然帰ることになった。
そのため、ブルースター軍は近くを周回している巡洋艦をチャレンジャーに送り付けてきた。
バロックさん、なんでこんなに早く帰ることになったんだろ? ま、いいか。今夜の送別会は盛大にやろう。バロックさんは酒豪だしね。
そんなことを思っていると、アイルさんがきて耳元でこう言った。
「誰でもいいんだが、バロックさんを迎えにきている巡洋艦を偵察にやってくれないか」
「偵察って言うと隠密行動だから、黒のホワイトウィング乗りのミシェルでいいですよね」
僕がそう言うと、アイルさんはうなずいてバロックさんのほうに行ってしまった。
僕がミシェルにアイルさんからの偵察の依頼を伝えると、二つ返事で快諾をしてくれた。
ミシェルを見送って戻ってくると誰もいなかった。
バロックさんもアイルさんもだ。おかしいと思って周囲を捜しまわっていると、バロックさんのはなむけにホワイトウィングの編隊で見送るためにみんなで練習にいったという。
でも、バロックさんとアイルさんはどこ行ったのだろうか?
僕がさらに艦内を捜しまわっていると、アイルさんが戻ってきた。
顔面蒼白だ。どうしたんだろう。
「あいつらはどこ行った? ブルースター軍巡洋艦の動きが拠点ハイランドを刺激した。今あそこには黒騎士がいるはずだ。急いで戻らせろ」
僕は白のホワイトウィングに乗って、四人を止めに向かった。
やがて、四機のホワイトウィングが見えてきたと思ったら、巡洋艦が撃沈されてしまった。
そして、黒騎士の攻撃はミシェルに向かった。
四機はミシェルを庇うように編隊を組んだが、全滅した。
やはり、相手が黒騎士ではかなうはずもなかった。
「ジル、お前は戻れ。まもなくチャレンジャーがライトゲイトに突入する」
赤のホワイトウィングに搭乗したアイルさんが叫んだ。
「でも、ここで退いたら黒騎士がチャレンジャーを撃墜しちゃう。だから僕は」
「あたしがやる。お前は戻れと言ったろう」
「でも……」
「ジル、頼む。最後くらいはあたしの言うことを聞いてくれ」
「最後だなんて……。わかりました。アイルさん、ご武運を!!」
そう言って、揚陸艦チャレンジャーに戻った。
揚陸艦チャレンジャーはライトゲイトに突入寸前だった。
「バカ野郎!! 小型機でライトゲイトに突入したらどこに飛ばされるのか分からないんだぞ」
ジャックが僕を抱きしめて言う。
そして、揚陸艦チャレンジャーはライトゲイトに突入した。
ライトゲイトの中はまさに一面光だった。
光の中を揚陸艦チャレンジャーは進んでいく。
変な気分だ。周囲が全部光に囲まれている。
そして、漆黒の闇に再び飲み込まれていった。
「艦長、ライトゲイト通過を確認」
情報収集班から艦長に報告があり、グレッグ艦長は指示を出す。
「了解。総員第一種警戒態勢を解除。これより第二種警戒態勢に移行する」
艦内にアナウンスが響きわたる。
「いよいよ地球だな。楽しみだよ」
ジャックが僕と肩を組み、ワクワクしている。
「もう二千年以上もこっちの世界と情報が途絶しているんだから、僕は逆に怖いよ」
僕がそんなことを言っていると、ジャックが笑い飛ばした。
「ジルはホント臆病者だよな。黒騎士みたいなのがそうそういるわけないだろ」
それから数時間後、揚陸艦チャレンジャーのブリッジにグレッグ艦長はいた。
「地球の姿を捉えました。メインパネルに出します」
情報収集班がグレッグ艦長に報告する。
「頼む。みんなにも見られるように艦内すべてに回してくれ」
グレッグ艦長はそう言い、情報収集班に指示した。
メインパネルに映った地球にグレッグ艦長は絶句し立ち尽くした。
「水の星ではなかったのか。地球は!」
「地球からの救難信号を受信しました」
情報収集班がグレッグ艦長に報告する。
「地球のどこからだ」
「イギリス南西部。コンウォール基地からです」
グレッグ艦長の問いに、すかさず情報収集班が答える。
「大気圏突入後、ジル・ベイヤーにコンフォール基地に出撃させる。ジルに用意させておけよ」
グリーンムーン軍揚陸艦チャレンジャーは変わり果てた地球を目指し航行していった。
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