第2話
その日、連合軍揚陸艦アンバージャックはグリーンムーン軍からの極秘情報により極秘任務の作戦を遂行していた。レッドスター軍に潜ませているスパイからの情報により旗艦空母チャールストンが総帥自ら指揮して拠点ハイランドへ向けて航行しているという。グリーンムーン軍揚陸艦チャレンジャーと連携して空母チャールストンを撃沈して拠点ハイランドを連合軍のものにすれば地球帰還作戦の輸送船についてライトゲイトを安全に通過することが可能になるというのが連合軍の狙いであった。
アンバージャック艦長レイノルドは艦長室にて深いため息をついていた。連合軍上層部から命令がきているとはいえ、なぜグリーンムーン軍揚陸艦と共同作戦になるのか。連合軍とグリーンムーン軍が共同作戦を極秘に進めるなど前代未聞の作戦ではないか。
そういう一抹の不安を抱きながらチャレンジャーの到着を待っていたが、チャレンジャーは一向に姿を現さない。痺れをきらしたレイノルドは艦長室からブリッジへと歩いていった。
チャレンジャーが来ないのは少し解せない。ひょっとしたらおとりに使われているかも。
「攻撃隊に連絡しろ。レッドスター軍拠点ハイランドを急襲する。準備ができ次第、出撃しろ!!本艦も拠点ハイランドに向けて急襲をかける」
おとりだとしたら、こちらから動いてしまった方が逆に安全だな。ピンチの時こそチャンスに変える。これが名将軍なのだよ。
レイノルド艦長はそう思いながら、艦長席にどっかりと座った。やがて、情報収集班の一声で状況は一変する。
「攻撃隊が会敵しました。相手はく、く、くろきしです」
そう言って、その男はブリッジから駆け出していった。
えっ、どゆこと?
く、く、く、く黒騎士だと。
ブリッジにいる人間はレイノルド艦長を残して皆ブリッジを出て駆け出して行ってしまったが、レイノルド艦長は腰を抜かして立ち上がれない。
「ぜんめちゅだと。ごめんなちゃい。ゆるちてえ」
もう何を言っているかもわからない。
連合軍揚陸艦アンバージャックは黒騎士の攻撃により轟沈した。
連合軍揚陸艦アンバージャックを監視する不審な機影があった。
その機体を操縦するのはグリーンムーン軍エースパイロットのスチュアートだった。グリーンムーン軍揚陸艦チャレンジャー副艦長ミゲルからの密命によりアンバージャックの動向を監視して、その後レッドスター軍攻撃隊を尾行することになっていた。しばらくすると、レッドスター軍攻撃隊が現れて一瞬で連合軍揚陸艦アンバージャックを撃沈していった。
スチュアートの仕事はここからが本番だ。敵空母チャールストンの位置座標をチャレンジャーに送るまでが彼の仕事であった。
さあ、ここからが俺の腕の見せ所だ。気づかれないように距離をとってするとしよう。
そんなことを考えていると、やがて敵空母チャールストンが視界に入ってきた。レッドスター軍旗艦空母チャールストンは悠然と拠点ハイランドに進軍していた。
どうして空母チャールストンだけの単独行動なのだろう。逆にこちらが嵌められているのではないか。まあ、いいか。俺には関係ないし。さてと、位置座標を送って、任務完了。
スチュアートはチャレンジャーに引き返していった。
時は連合軍揚陸艦アンバージャックが轟沈した一時間前にさかのぼるが、グリーンムーン軍揚陸艦チャレンジャーの艦長室に艦長グレッグと副艦長ミゲルがいた。
「ミゲル君、今回の君が提案してきた作戦は本当に大丈夫なのか? 連合軍揚陸艦をおとりに使うなんて。ブルースター軍にばれたら私と君のクビでは済まされないぞ」
グレッグ艦長は今回の極秘作戦に慎重だ。
「ん、グレッグ艦長殿はあまりに慎重なのでは。グリーンムーン軍上層部から作戦の立案許可をとっているのですから大丈夫ですよ」
ミゲル副艦長は笑いながら言った。
グレッグのやつ。肝心なところで及び腰になっているな。ここはもう一芝居うつか。
「この極秘作戦が成功した暁にはグレッグ艦長殿と私の昇進が約束されています。お互い現場の指揮官を卒業して本国の会議室でゆったり仕事したいですな」
ミゲル副艦長はダメ押しの一手を使った。
うぬぬ。確かにそうかもしれぬ。
結局、グレッグ艦長はミゲル副艦長のごり押しに抗することができなかった。
しかし、なぜ軍上層部はミゲルに対してあそこまでの権限を与えているのだろう。書面は本物だったし、不正をした痕跡もなかった。とりあえず、ミゲルは要注意だな。スパイとともに監視対象としておくか。
艦長室からブリッジへと歩いていく中でグレッグ艦長はそう思った。
その後、グリーンムーン軍揚陸艦チャレンジャーの副艦長ミゲルはレッドスター軍攻撃隊から帰還したスパイと情報交換をするためにチャレンジャーの艦長室に残っていた。艦長のグレッグはブリッジで今回の極秘作戦の陣頭指揮をとるためブリッジに戻っていった。ミゲルの目の前に座る男に向かって不敵な笑いを浮かべながらミゲルは言った。
「こちらとしては拠点ハイランドなど取るに足らないものなんだよね。我が軍の新兵器を試射するチャンスさえもらえればね」
「えぇ、ミゲルの旦那の言う通りレッドスターの攻撃隊に潜入して情報を流してきたんだから、それなりの報酬はほしいんだね。あんな青二才の下で働くのはもう御免なんだね。ガハハハッ」
ミゲルに話しかけるスパイの男ハモンズは豪快に笑った。
「そう言うな。お前にはもうひと働きしてもらう。グレッグ艦長を亡き者にすることが次の命令だ」
「ガハハハッ、そんなもんお安いもんよ」
ハモンズはグリーンムーンの貧民街の出であり、ミゲルが貧民街で使い勝手のいい殺し屋を探していたところに出会った男であった。いわゆる『都合のいい男』なのだ。
「ハモンズ、お前には特別室をあてがってやる。それから今回の報酬はこの艦の艦長のイスだ。自分でもぎ取ってこい」
「はいな、旦那。わかったんだね」
そう言って二人は艦長室を出ていった。
ハモンズを特別室に隔離した後にブリッジに上がってきたミゲルはちょうどスチュワートから位置座標を受信したグレッグ艦長と目が合い、静かに頷いた。
「総員、第一種戦闘態勢を発令。耐ショック防衛システム起動」
グレッグ艦長の指示が飛ぶと同時に警報が艦内に鳴り響く。ブリッジが下降しチャレンジャーの内部に沈み込んでいく。
「ハイパーメガ粒子砲 発射準備。目標 敵空母チャールストン」
グレッグ艦長は緊張気味にそう続けた。今回はグリーンムーン軍の新兵器ハイパーメガ粒子砲の試射を兼ねた敵戦力の掃討作戦がグリーンムーン軍の本当の目的だったのだ。アンバージャックという餌にまんまとレッドスター軍がかかった形だ。作戦立案者のミゲルは不敵に笑う。
「ハイパーメガ粒子砲 エネルギー充填百二十パーセント。いつでもいけます」
砲撃手がグレッグ艦長に伝える。
「カウントダウン省略。三 二 一 発射!!」
グレッグ艦長が叫ぶ。ハイパーメガ粒子砲は閃光と轟音を残し、敵空母チャールストンを襲い撃沈させた。
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