この宇宙の果て
すぎやまかおる
第1話
レッドスターのライトゲイト周辺の拠点ハイランドに向けて旗艦空母チャールストンが進軍していく。拠点のハイランドはライトゲイト近くの小惑星に設けた要塞であり、初代総帥アイル・チャールストンが『レッドスター戦役』の際にここを拠点にしてブルースター軍とグリーンムーン軍の連合軍を撃破したというレッドスター軍にとっては最重要拠点である。
攻撃隊長アーサー・バーンズと副長アイル・チャールストンは総帥ライル・チャールストンに呼ばれ、総帥室に向けて歩いている。
「隊長……。あたしは呼ばれていないから行かないほうがいいのでは」
「アイル、問題ないよ。副長が作戦を聞かないなんておかしいだろ」
空母になぜ総帥室があるのかというと初代総帥アイル・チャールストンが連合軍に対して先陣をきっていたためレッドスター軍の旗艦には総帥室が常設されるのが通例となっているのだ。二人は総帥室の前までくると見つめ合った。
「アイル、これが最後の出陣になるかもしれない。聞いておいてくれ」
「なんでそんな不吉なこと言うの」
「無事帰還したら結婚しよう」
アーサーは頬を真っ赤にしたアイルにウィンクをしながら総帥室のドアをノックした。
扉を開けて入ってきた二人を見たライル・チャールストン総帥は不機嫌な表情を隠さなかった。
「私が呼んだのは隊長一人のはずだが、どういうことか説明しろ。アーサー隊長」
「攻撃隊全体への作戦の指示であれば副長を同席して当然ではないでしょうか。閣下」
「事前に相談しろと言っているんだ」
「事前に相談したら妨害されるのではないですか」
総帥に対しアーサーが反論する横でアイルは黙り込んでいる。
「俺はこいつの名前、顔、容姿すべてが気に食わないんだ。何回も言わせるな」
「しかしながら、その理由とアイルとは全く関係がないのは閣下ほどの方であればご理解できようというもの」
「まず、名前アイル・チャールストン。私の先祖でありレッドスター政府の初代総帥アイル・チャールストンと同じだ。つぎに」
と言いながら、壁に掲げられる大きな肖像画を指さす。
「顔も容姿も全く一緒ではないか。偶然だとは言わせぬぞ。アーサー」
その肖像画にはライル・チャールストン総帥が指摘するように副長アイル・チャールストンと同じ顔と容姿を持つ女性が描かれていた。その肖像画には長く綺麗な藍色の髪に褐色の肌をした精悍な女性が描かれていた。
「閣下、偶然ですよ。三千年前の初代総帥と副長が似ているって偶然以外なにがあるんですか?」
「名前もか?」
「偶然ですよ。フフ」
そんな問答を毎回しているのである。
「閣下、冗談はさておき……」
「冗談ではないぞ。アーサー。毎回毎回うやむやにできるとは思うなよ」
アーサーはアイルに向けて呆れた表情を向けた。
「じゃ、アイル。今回はこの辺で退出しようかい」
二人揃って退出するのを見てライル・チャールストン総帥がアーサーを引き留めた。
「わかった。同席を許す。今回だけだぞ」
アーサーは再びライル総帥に向きあい、話を始めた。
「閣下、拠点ハイランドに先行させていた偵察機からの情報によると連合軍揚陸艦アンバージャックがライトゲイトに接近しているそうです」
「えっ、そんな大事なことをなんで黙っているんだ」
「そんなことよりも私にとってはアイルのほうが大事なんでね」
アイルが顔を赤らめる。
「う〜〜ん、仕方ないな。よし分かった。会敵までの時間は?」
ライル総帥はあきらめて会話を続ける。
「およそ三十分ほどかと」
アイルが報告をする。
「攻撃隊はすでに出撃態勢が完了しており、いつでも閣下のゴーサインで出撃できますよ。フフ」
アーサーはいたずらっ子のようにライル総帥をからかった。
「もうよい。さっさと出撃しろ」
アーサー隊長とアイル副長の二人は急いでコクピットに乗り込み出撃態勢を整える。
「アーサー・バーンズ。ブラックタイガー出撃する」
轟音を残して漆黒の機体が空母チャールストンを離陸していく。アーサーの機体は旧式の機体ながら整備がよくなされており、ライトゲイトの光の中を通常機の二倍近い速度で駆け抜けていった。
「みんな、遅れるなよ。アイルいくよ」
アイル副長の機体に続き、攻撃隊の機体が十数機一斉に空母チャールストンを離陸していった。隊長機もそうだが、レッドスター軍攻撃隊の機体はブルースター軍の旧式機体を横流ししてもらっているのである。ブルースター軍の最新式の機体に比べると二世代前の機体であった。アイル副長機と攻撃隊は編隊を組んで連合軍揚陸艦アンバージャックを目指す。
「アイル副長、敵襲です」
攻撃隊のレインズが叫ぶ。
「うろたえんじゃないよ。それでもレッドスター軍攻撃隊かい」
アイル副長が機転をきかせ攻撃をかわしていった。それに続いて攻撃隊も次々と攻撃をかわし反撃態勢にうつる。先行していたアーサー隊長機が敵十機を次々と撃破していく。アイル副長機も負けずに八機撃破していく。連合軍攻撃隊は一瞬で二十六機が全滅した。その勢いを駆って攻撃隊は連合軍揚陸艦アンバージャックを捕捉し、一気に轟沈させる。
「一瞬だったね。アーサー」
「ルートが分かっていればこんなもんだよ。ライトゲイトの前で待っていれば敵さんが向こうからやってくるからね。それに機体の性能ばかりに頼っている連中じゃ相手にならんだろう。そうだ、アイル。戻ったらすぐに俺の部屋に来てくれ。あ、君の部屋に届けさせてある服を着てね」
アーサーは少し照れ臭そうに言った。
攻撃隊は空母チャールストンに帰還していく。
アーサーたちは不穏な機影に気づいていなかった。
空母チャールストンに帰還後、アイルや攻撃隊の面々が休憩室に戻る中でアーサーは整備班のひとりに声を掛けられた。
「アーサー隊長、一機足りないんですが撃墜でもされたのですか?」
「誰がいない」
「ハモンズさんですね」
「少し捜してくる。アイルたちにはそう伝えておいてくれ」
アーサーは再出撃した。その刹那の瞬間、ものすごい閃光と轟音が辺り一帯を襲った。その直後、アーサーは振り向きざまに信じられない光景を目にした。たった今飛び立ったばかりの空母チャールストンが轟沈していたのである。
「アイル……」
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