人生5周目
ゆらゆらと、海で漂うクラゲになった気分。
先程までの身体の重さはすっかり治っている。
ゆっくりと目を開ける。やはり、同じ景色が待っていた。
なんかもう、慣れてきたな……
「おーい、聞こえるか、アレクサンドル」
「ふふ。きっと聞こえていますよ」
さあ、両親の会話をBGMに、生き残る方法を考えていこう。
どうやら女児が当たりなのは、私が星の子だかららしい。
星の子とは、小説内でキーパーソンとなる者だ。
ここ、グリーン王国では当然のように魔術が使える。が、人によって使える魔術のレベルには差がある。
この差は努力では埋められず、生まれた瞬間に決まってしまう。
しかし、星の子は違う。
星の子の魔術レベルは世界で一番高い。しかし、身体の構造はそのレベルに対応せず生まれてくる。
だから星の子は、身体の構造を魔術レベルに合わせるため努力する必要があるのだ。
私がさっき、父親を守ろうとして発動した光の盾も、星の子の魔術の1つだ。
「きっと、アクアレイン、貴方のように強くなりますよ」
そう、私には父親を守るほどの強さを持っている。
しかし、所詮ただの0歳児。雑に魔術を使えば身体が対応しきれず、さっきのように気を失って終わりだ。
つまり、私はある程度能力を抑えて盾を作って父親を守り、あの女を倒さねばならないのか……
「うっ……ああっ!!」
「おい、大丈夫か!」
「ううぅぅ…ああぁぁ!!」
「早く、早く医者を!!」
きっと「守りたい」っていう気持ちがあれば、星の子だし魔術は発動できる。
加減ができるかは不安だけど……
「はい、只今! 夫人、急いでベットへ!!」
「ミラ、もう少しの辛抱だ!」
「ううぅぅぅぁぁあああ!!」
問題は、盾を作った後だ。
どうすれば、父親を勝たせられる?
「ああああああ!!」
「ミラっ!!」
「おんぎゃあああああああ!!!」
まずはさっきの場面に行くまで流れ作業だ。
「夫人! 領主様! 生まれました! 元気な、おんn―――」
「ぶんぎゃあああああああ!!!」
「……今、何と言った?」
「ですから、生まれたのは女の子―――」
頭めがけて飛んできた矢を、私は間一髪でかわす。
「命知らずがッ!!」
「ばぁ、ばぁぶ」
ここでさっきはただソファを指差すだけだったが、少し体内のエネルギーを指から放出させて、ソファめがけて発射する。
するとソファ越しに、女のシルエットが見えるようになった。
「こ、これは……」
「アクアレイン、この子―――」
「うーわ、もうこれ暗殺者じゃなくなっちゃったじゃん」
両親が顔を見合わせていると、ソファの陰から女が現れた。
女は、私が発動した魔術を受け、光の粉をまとっている。
「まさか、星の子だったなんてねぇ? ラッキー」
「お前……!!」
女が弓を構えたので、父親も慌てて剣を構える。
しかしその時にはもう既に矢が放たれていた。
「ばあ!!」
私は両手を女にかざした。
すると、父親の顔めがけて飛んできた矢を、屋の当たる部分だけにバリアを張り、防ぐことに成功した。
「んなっ!?」
「アレクサンドル、これも貴方が……?」
「ばあぶ!」
驚いて顔を覗き込んできた母親に、私は笑顔で返事をした。
慌てた女が連続で3本ほど矢を放ったが、私はすぐに光のバリアをはって父親を守る。
「この忌々しい星の子め……殺してやる!!」
女の標的が父親から私に変わった。
「アレクサンドル!!」
私めがけて飛んできた矢から守ろうと、父親が走って私の元へ駆けつけるが、間に合うはずもなかった。
しかし、特に問題はない。だって自分で防げるもん。
私は再び光のバリアを召喚し、矢を弾いた。
「クソッ、クソクソクソッ!!」
女が何発矢を放とうと、私のバリアには敵わない。
「クソッ、矢が通じないなら……!!」
女は弓を床に投げ捨て、レッグホルスターから短剣を2本、取り出した。
そして地面を蹴り上げ、高速で私に飛びかかってきた。
「死ねえええぇぇぇ!!!」
えーっと、この場合、私が女を殺しても正当防衛成り立つよね? 有罪ではないよね?
じゃ、殺しまーす☆
「アレクサンドルっ!」
父親が腕を伸ばして私を守ろうとしているけど、届いていない。
ま、自分でやれるから別に良いけど。
私は右手で銃の形を作り、女めがけて撃つ素振りをした。
すると、私の人差し指から光の矢が発射され、女の心臓を貫いた。
「カハッ……」
女はその場に倒れ、意識を失った。
褒めてもらおうと大人たちを見ると、皆の目が点になっていた。
いやまあそりゃそうだよね。生まれて間もない娘が、父親でも敵わない相手を難なく殺したんだから。
「ば、ばあぶ……?」
抱っこしてくれている母親の顔を覗き込む。
母親はゆっくり首を動かし、私を見つめた。
「…………よ」
「ふぇ?」
母親が何か言ったが、聞き取れない。
「うちの
「!?」
母親が私を頭上に掲げて、そう叫んだ。
「アクアレイン!」
「……ああ! アレクサンドルは奇跡の星の子だ!」
母親の声掛けに応じ、父親も私に駆け寄ってきた。
医者は膝から崩れ落ちた体制のまま、涙を流していた。
「ば、ばぶ?」
私は状況を理解できず、高い高いされたまま固まっていた。
「アレクサンドル!」
父親の呼びかけに、母親が腕を下ろし、私を父親に渡した。
「ありがとう。君は我が家の星だ!」
「ええ。本当にありがとう、アレクサンドル」
「ば、ばぶ……」
今度は私の目が点になっていた。
「アハハハハ〜」
「ウフフフフ〜」
いや、アハハウフフじゃ無いんですよ。
まずこの女の死体どうにかしてくれませんかね!?
ていうか誰かしら使用人呼んだらどうです!?
「奇跡の子〜♬」
「星の子〜♬」
歌なんて歌ってないでさあ!?
まあ、何はともあれ、私は無事、生後1秒で殺されるキャラで生き残る方法を見つけました!
この後、私は時々命を狙われながら、すくすくと育っていきます。
そして6歳になり、アイランド学園に通い始めます。
そこで私の、星の子の力を使って無双して世界を救うのは、また別のお話です☆
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
生後1秒で殺されるキャラに転生しましたが、ループ機能で生き延びます。 カボチャ @flee
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