人生4周目

 ゆらゆらと―――してる暇無いから!!

 私はカッと目を開く。


「おーい、聞こえるか、アレクサンドル」

「ふふ。きっと聞こえていますよ」


 ごめん、お父さんお母さん。もうツッコむのやめるね。

 今、それどころじゃないから。


 さっきの短い人生で分かったことは、次の4つ。

 ①1回目の攻撃はかわせる。

 ②私を殺したのはアクアレインではなく謎の男。

 ③謎の男はアクアレインよりも実力がある。

 ④女児は「当たり」らしい。


 私がこの物語を書いた時、アレクサンドルの死因について深く触れなかった。

 そのせいで、実はなんかめんどくさいことになっていたらしい。

 今まで娘を生後1秒で殺すクソだと思っていた父親も、実は殺人鬼を殺そうとしてくれていた神だった。ごめん。

 でも、物語ではアクアレインは生き延びて、アレクサンドルは死んでいる。

 さっき父親が死んだのは、私が1回目の攻撃を避けた影響でストーリーが変わってしまったからなのかもしれない。

 だとしたら、全員生き延びる方法を探すしかない。


「きっと、アクアレイン、貴方のように強くなりますよ」

「全ては、ここ、グリーン王国の発展のため、そして我がネプチューン領の発展のためだ。元気に生まれてくれよ、アレクサンドル」


 うん、私、頑張ってみるね。

 でも、一体どうすれば良いのだろう?

 変えるとしたら、私への1回目の攻撃を避けた後だ。


「うっ……ああっ!!」

「おい、大丈夫か!」


 え、もう陣痛始まっちゃいます?

 まだどうするか考えてる途中なのに……


「ううぅぅ…ああぁぁ!!」

「早く、早く医者を!!」


 うーん、攻撃を避けた後、父親がソファにまっすぐ向かうのを止める……とか?

 でもどうやって止めたらいいんだろう。生後1秒でも歩けるのか?


「はい、只今! 夫人、急いでベットへ!!」

「ミラ、もう少しの辛抱だ!」

「ううぅぅぅぁぁあああ!!」


 さて、考えがまとまっておりません、アレクサンドル選手!

 しかし、まもなく人生スタートです! どうするのか!?


「ああああああ!!」

「ミラっ!!」

「おんぎゃあああああああ!!!」

「夫人! 領主様! 生まれました! 元気な、おんn―――」

「ぶんぎゃあああああああ!!!」


 アレクサンドル選手、まずは全力の泣き声で、殺人鬼と父親の動きを止めた!


「……今、何と言った?」

「ですから、生まれたのは女の子―――」


 そして父親の目が光ったと同時に、頭を最大限下げ、1回目の攻撃を避けた!


「命知らずがッ!!」


 さあ、ここからどうする、アレクサンドル選手!!


「ばぁ、ばぁぶ」


 私は小さな左手で父親の裾を掴み、右手でソファを指さして、訴えかけるような顔をして父親を見つめた。

 それに気がついた父親が一時思考を停止し、そしてすぐに私の頭を撫でた。


「どうしたんだ、アレクサンドル」

「ばぁ、ばぁ」


 父親は私が指差す方向を見て、納得したように頷いた。


「そうか、アレクサンドルにはわかるのか」

「ばぁ?」


 父親の言っていることが分からず、私は首をかしげた。

  

「アクアレイン、この子は、きっと……」

「ああ、きっと伝説の―――」

「星の子、だねぇ?」


 両親の会話を遮ったのは、あの女だった。

 バッと皆が声の方を見ると、ソファの陰から女が現れた。


「いやあ、まさか星の子が生まれるとは思わなかった。ラッキー」

「クソっ、お前か……!」


 父親と女が、自分の武器を構え、向かい合った。

 2人の間には6メートルほど距離があり、長剣と弓では明らかに弓が有利だ。


「言っとくけど、領主さん。あんたに勝ち目は無いから」

「何だと!?」

「いくら星の子だって、まだ生後何秒かでしょー? 星の力なんて使えるわけ無いじゃん。さっさと殺されてよね」


 そう言って女が矢を放った。

 父親の右頬から、真っ赤な血が垂れている。

 矢は、後ろの壁に刺さっていた。


「今は、外したから。でも、これで分かったでしょ? 実力不足だって」

「……っ」

「さっさと降参したら? 条件付きで、命は助けてあげる」


 父親が悔しそうに俯く。

 しかし、右手に持った長剣は離していなかった。


「あれぇ? まだ続ける気?」

「……アレクサンドルは私が守る」

「わあ、カッコいい! でも、口ではなんぼでも言えるよね。もう、容赦しないよ?」


 女が、再び矢を放った。

 やばい。父親が殺されてしまう。

 どうすれば良い? どうすれば……


「らめええぇぇっ!!!」


 私は全力で叫んだ。「ダメ」と。

 すると、身体の中のエネルギーが、みんな無くなる感覚があった。

 カキーンと、矢が硬い盾に当たった音がした。

 すっかり重くなった身体を必死に動かし、目を開けると、そこには金色に光った、大きな光の盾で守られる父親の姿があった。


「こ、これは……」

「なっ……!まさか、0歳でも星の力が使えるなんて!!」


 女が悔しそうに弓を下ろす。

 星の力? もしかして、小説内で、生き返ったアレクサンドルが使える唯一無二の魔術が、生後1分の私でも使えたの?

 でも、身体が重すぎて、思考するのも苦しい。

 きっとあの光の盾を0歳児に召喚させるのは、まだ早かったのだろう。

 私の意識は、間もなくしてぶっ飛んだ。

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