人生3週目
ゆらゆらと―――はもう良いや。
目を開けますと、見覚えのある壁と水がありますね。
「おーい、聞こえるか、アレクサンドル」
「ふふ。きっと聞こえていますよ」
そして当然のように同じセリフを喋る両親。
やっぱループしちゃうかー。そっかー。
いや、なんでやねん。(パシッ)
「ほら、アレクサンドルも反応しています」
おっと失礼、ついツッコミで壁を叩いてしまった。
はい。皆様ご存知の通り、私はまた胎児に戻りました。
「ああ。きっと強い男児が生まれることだろう」
「そうですね。我が家には代々、男の子しか生まれていないのですから、心配はいりませんよ。きっと、アクアレイン、貴方のように強くなりますよ」
さて、どうやったら生き延びれるか考えますか。
さっきは産声で時間稼ぎができたから、今回も最初はそれをするとして―――
「全ては、ここ、グリーン王国の発展のため、そして我がネプチューン領の発展のためだ。元気に生まれてくれよ、アレクサンドル」
うるせえ黙れ人でなしが。
……皆様大変申し訳ございません、少々文面が荒れておりますね。
さて、陣痛が始まる前に次はどうすれば良いか考えよう。
まず、一回目の医者の「女の子です」は全力の産声でかき消せることが分かった。
しかし、問題は父親が聞き直したときだ。
恐らく父親は、瞬殺できる首か頭を狙って剣を振っている。
なら、その瞬間に頭を下げ、驚いてよろめいた医者の手から逃げ出せば……
「うっ……ああっ!!」
「おい、大丈夫か!」
「ううぅぅ…ああぁぁ!!」
「早く、早く医者を!!」
さあ、陣痛が始まった。
上手くいくか心配だし怖いだけど、やるっきゃ無いよね。
「はい、只今! 夫人、急いでベットへ!!」
「ミラ、もう少しの辛抱だ!」
「ううぅぅぅぁぁあああ!!」
出口が見えてきた。
よし、泣き叫ぶ準備満タン!!
「ああああああ!!」
「ミラっ!!」
「おんぎゃあああああああ!!!」
前世でのストレスを力に変えて!!
「夫人! 領主様! 生まれました! 元気な、おんn―――」
「ぶんぎゃあああああああ!!!」
うわ〜っ、これめっちゃスッキリする!
「……今、何と言った?」
「ですから、生まれたのは女の子―――」
父親の目が光った。今だ!!
私は限界まで頭を下げる。
頭上で、シュン、と何かが通り過ぎた。
意識は、飛ばない。きっと、セーフだ。
私が恐る恐る顔を上げると、目の前には、腰に差した剣の柄の部分に手を置く父親がいた。
「命知らずがッ!!」
父親は怒り狂った顔をし、剣を抜いた。
そして私に振りかかった……わけでは無かった。
「アレクサンドルをミラの元へ!」
「はっ、はいっ!」
父親の声に、医者は慌てて従う。
私は何も理解できぬまま母親に渡った。
「おのれよくも……!!」
父親は部屋のソファに剣先を向けた。
「アレクサンドル。大丈夫よ、怖くないからね。」
「……?」
何も理解できていないまま、母親に目を覆われた。
「はっ、女か! こりゃあ当たりだったな! 勿体ないけど、領主の矛先も向いたわけだし、皆殺しにしちゃおう」
母親のものではない、低い女声が聞こえた。
「アレクサンドル……! 何も聞かないでね……!」
そう言って母親は耳も塞いできた。
しかし母親は小柄な女性だったため手も小さく、完全に覆うことはできていなかった。
「何だと!? 一体、何の目的で―――」
寝室に、真っ赤な血が飛び散った。
父親が膝から崩れ落ち、倒れた。
その頭には、矢が刺さっていた。
「ヒッ……!」
母親の息が、鼓動が、速くなっていく。
「まずは1人〜」
ソファから低身長の女が出てきた。
手には弓を持ち、肩には矢筒をかけている。
「ほらほら、君の愛する夫は死んじゃったよ? だから、もう守ってくれる人なんていないんだから、さっさと殺されてよね?」
女が、こっちに近づいてくる。
母親はただでさえ出産直後で疲れているだろうに、夫も目の前で殺され、かなりパニックになっていた。
医者に関しては、まだ目もつけられていないのに、膝から崩れ落ちて震えている。
どうしたらいい? どうしたら生き延びられる?
というか、父親は私を殺した人じゃ無かったの?
「大丈夫。お嬢ちゃんは最後に殺してあげるからね」
何が大丈夫なの!?
「それじゃ、大人たちはさよーなら」
目で追えないスピードで矢が飛んできて、真っ赤な血が飛び散った。
「ねぇねぇ、お父さんとお母さん、死んじゃったね? 今どんな気持ち?」
「ふ、ふぎゃあああああ!!」
本能を抑えきれなくなり、私は泣き叫んだ。
それから間もなくして、私の意識はぶっ飛んだ。
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