人生2周目

 ゆらゆらと、海で漂うクラゲになった気分―――

 ハッと目を覚ます。

 見覚えのある場所、感触。


「おーい、聞こえるか、アレクサンドル」

「ふふ。きっと聞こえていますよ」


 そして、聞き覚えのある声とセリフ。

 まさか……ループしてる!?

 私は驚きでつい、壁を蹴ってしまった。


「ほら、アレクサンドルも反応しています」

「ああ。きっと強い男児が生まれることだろう」


 いやいや、流石にそんな現実味のない話が実現するなんて―――


「そうですね。我が家には代々、男の子しか生まれていないのですから、心配はいりませんよ。きっと、アクアレイン、貴方のように強くなりますよ」

「全ては、ここ、グリーン王国の発展のため、そして我がネプチューン領の発展のためだ」


 いや、これマジかもしれない。

 もしかしたらさっきのが夢だったって可能性もあるし、そもそもこの転生自体が夢の可能性もある。

 けど……夢にしては感覚がはっきりしすぎている。

 さっき、おそらく私は小説通り、父親に殺された。

 痛みを感じたり、悲鳴を上げる前に意識を失ったから、きっと首でも切られたんだろう。


「元気に生まれてくれよ、アレクサンドル」


 いやお前に殺されたんだけどね!?

 それにしても、計画が狂ってしまった。

 今回謎に過去に戻って生き延びたっぽいが、このままだとさっきと同じ死に方をする。

 しかし、逃げるという手は通用しない。

 だって生まれた直後、医者に抱えられてるんだもん。


「うっ……ああっ!!」


 やばい、まだ何も考えてないのに陣痛が始まった!


「おい、大丈夫か!」


 大丈夫なわけねえだろボケ。


「ううぅぅ…ああぁぁ!!」

「早く、早く医者を!!」


 あわわわ、どうしよう?

 出口が見えたら自力で出て逃げ出す?

 でも自力で出れる自信がないし、どのみち頭が出たら医者に掴まれるしなあ……


「はい、只今! 夫人、急いでベットへ!!」

「ミラ、もう少しの辛抱だ!」

「ううぅぅぅぁぁあああ!!」


 やばい、もう出口が見えてきた。

 壁も迫ってきてるし、頭が飛び出すのも時間の問題だ。


「ああああああ!!」

「ミラっ!!」


 頭が何者かに掴まれた! 絶対医者じゃん!

 くっ、こうなったら全力で医者の手から逃げ出すしか―――


「おんぎゃあああああああ!!!」

「夫人! 領主様! 生まれました!」


 私は必死に医者の手から逃れようとジタバタする。

 しかし医者の方も暴れる赤ちゃんには慣れているのか、全く動じない。

 仕方がない、こうなったら……!


「元気な、おんn―――」

「ぶんぎゃあああああああ!!!」


 私は全身の力を振り絞って、泣き叫んだ。

 どうにかして、医者の言葉をかき消そうと。


「あ? 今、何と言った?」


 恐る恐る目を開けると、父親の手に剣は無かった。

 お、やった! ちょっと生き延びる時間が増えた!


「ですから、生まれたのは女の―――」

「お、おぎゃああああああ!!!」


 やばいやばい。医者の声かき消すの遅れ―――


 パシュッ―――


 寝室に、真っ赤な血が飛び散った。


「命知らずが!!」


 あらぁ、手遅れでしたか。

 私の意識は、再びぶっ飛んだ。

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