生後1秒で殺されるキャラに転生しましたが、ループ機能で生き延びます。
カボチャ
人生1周目
ゆらゆらと、海で漂うクラゲになった気分。
目を開けると、そこは赤い壁の部屋だった。
中は生暖かい液体で満たされているのに、呼吸をしていなくても苦しくない。
「おーい、聞こえるか、アレクサンドル」
「ふふ。きっと聞こえていますよ」
外から男女の声がした。壁越しなせいで、少し籠もっている。
聞こえてるよ、と言おうとしても、声は出なかった。
代わりに、壁を優しく撫でて答えた。
「ほら、アレクサンドルも反応しています」
壁の外から、何かに触られる感触があった。
この壁はかなり柔らかく、壁の向こう側の存在が認知できた。
「ああ。きっと強い男児が生まれることだろう」
「そうですね。我が家には代々、男の子しか生まれていないのですから、心配はいりませんよ。きっと、アクアレイン、貴方のように強くなりますよ」
ん? アレクサンドル? アクアレイン? どこかで聞いたことがあるような……
「全ては、ここ、グリーン王国の発展のため、そして我がネプチューン領の発展のためだ」
グリーン王国とネプチューン領という言葉を聞いて、明確に思い出した。
そうか、ここは、私が書き上げた「アイランド学園の星の子」という小説の世界なんだ。
「アイランド学園と星の子」とは、世界で唯一魔術が使えるグリーン王国内で、子どもたちが6歳から12歳までの6年間通うアイランド学園の中で「星の子」と呼ばれる少女の学園生活を題材とする異世界ファンタジー作品だ。
無料のWEB小説サイトに掲載した、完結まで5年もかかった長編の小説だ。
物語の中でのアクアレインは、本名をフラッド=アクアレインとし、グリーン王国の水魔術の頂点に立つ実力者でかつ、ネプチューン領の領主を務めるすごい人だ。
そして私は、代々男児しか生まれてこなかったフラッド家に突然生まれた女児のアレクサンドルだろう。
アレクサンドルと聞くと男の子のイメージが強いだろう。それもそのはず、アクアレインは絶対に男児が生まれてくると思い込んでいたため、男の子をイメージした名前を選んだそう。
小説内でアレクサンドルは、生まれた瞬間に怒り狂った父親のアクアレインに、女の子である事を理由に殺されてしまう。
しかし実は世界を救うために必要だった奇跡の子で、それも知らず殺してしまったアクアレインは酷く悔やみ、それを見かねた闇魔術師が協力して生き返らせ、世界を救うことになるキーパーソンだ。
「元気に生まれてくれよ、アレクサンドル」
そしてここはきっと、母親の胎内だろう。
また、身体がしっかり完成していることから、もうすぐ生まれる時期なのだろう。
しかし外に出れば父親に殺される。
そこで私は、あることを思いついた。
生まれた直後に父親から逃げれば、見逃してくれるのではないか。
「うっ……ああっ!!」
突然、部屋が揺れた。
しかし、水と柔らかい壁のお陰でどこも痛くない。
「おい、大丈夫か!」
「ううぅぅ…ああぁぁ!!」
「早く、早く医者を!!」
母親の悲鳴と、焦った父親の声が聞こえてきた。
すると、身体の周りにあった水が段々抜けていき、壁が迫ってきた。
「はい、只今! 夫人、急いでベットへ!!」
「ミラ、もう少しの辛抱だ!」
「ううぅぅぅぁぁあああ!!!」
今まで閉ざされていたこの部屋に光が差し込んだ。きっと外だろう。
生まれたらすぐ逃げる必要があるから、産声を上げる暇なんて無い。
絶対に、泣くもんか!
「ああああああ!!」
「ミラっ!!」
さあ、来るぞ! 3、2、1……
「おんぎゃあああああああ!!!」
「夫人! 領主様! 生まれました!」
あれっ? 私、なんで泣いてんの?
早く逃げないと……
「ぎゃあああっ、ふんぎゃあああ!」
「元気な、女の子です!!」
医者が私を領主によく見えるよう掲げる。
おっかしいなー、泣かないって決めてたのに、やっぱ本能には逆らえな―――
パシュッ―――
寝室に、真っ赤な血が飛び散った。
全ての時が止まったみたいに、静かになった。
「忌々しい女め……」
アクアレインのその言葉を最後に、私の意識はぶっ飛んだ。
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