single-phobia
平成生まれ昭和人間
シングルフォビア
誰かのためにしか頑張れないから、その誰かになってよ、そんな言葉に僕は驚いた。
貴方に初めて会った杪夏、自立した可愛らしい女性だと思った。落ちた人に手を差し伸べる貴方の姿には、心が動かされた。生業だから仕方なく、という貴方にまた心が動かされる。何事にも一生懸命で必死に生きている貴方は、1人で栄養を取り、眠りにつく。判を押したような毎日を、1人で、2本の脚で懸命に立っていた。
僕が貴方と逢った時、僕はまた独りになったところだった。嫌なところがあったわけじゃない。貴方が僕の前に現れてから、君のことが脳に浮かぶことが減った。君は価値観の凝り固まりで、僕とは7つ距離があった。隣にいてもなお、哀愁を感じることが多々あった。行く末が見えなくなってしまった時、僕は君との未来を捨てた。これから存在していたかもしれない未来に涙を流すこともあったが、今回ばかりは流れなかった。貴方との未来を想像していたからだ。
遠方の貴方に会うのは、様々なものを覚えさせた。近くの人とだけ未来を見ていた僕にとって、遠くの貴方との未来を想像することは難しく感じた。しかし、距離の違いは未来の想像に障壁を作るわけではなかった。君との未来のイメージは鮮明だった。未来がわからないから面白いという人もいるかも知れないが、僕は未来がわからないことには畏怖の念を覚える。一寸先が見えない暗い橋を渡ることができないように。
貴方と会うことは同時に、別れの侘しさを大きくした。男が一度手にした女を生涯自分の所有物であると勘違いするように、僕も君との時間は永遠であると勘違いをしていた。2晩、3晩と共にするたび、終わりのない幸せに脚をふやかしている気分になった。分かれる朝には、水に脚を入れたように身が覚める。それが僕の恐怖症を一層深刻なものにした。
僕は貴方の涙を見るたび、新たな感情が芽生える。この感情を形容することのできない歯痒さを噛み締め、つまらない小さい画面に目をやる。揺れる椅子に苛立ちを覚えながら、僕はまた、独りになることを想像して気分が落ちる。
僕が1人にさせた人たちは元気にやっているだろうか。時々、そんなことに時間を取られては、また気が滅入る。そんな時は、一時だけでも側にいてくれる人を探してしまう。そんなことは未来にならないとわかっていながらも、僕はそんな事を繰り返す。最低だと言われたことも、人の気持ちがないと言われたことも、独りの侘しさを軽くするためには厭わなかった。これが恐怖から逃れる方法であったから。
なぜだかわからないが、貴方を独りにしてしまった。今まで1人にさせた人たちの理由は明確であった。しかし、今回だけはわからなかった。これも症状の一つだったのかもしれない、そんな言い訳を自分の中で響かせる。反響して貴方に届く距離にはいないことは分かっているはずなのに。
他ではもう埋められなかった。どんなに新しい人を側においても、僕の侘しさは積もっていった。そのたび、僕はその人たちを1人にした。
そして貴方は、僕と同じ病を患ってしまった。貴方に1人の恐さを覚えさせたのは、僕だったのかもしれない。
single-phobia 平成生まれ昭和人間 @haru611
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