第2話 突然の復活

 ――あれからどれくらいの時が流れただろうか。

 ハッと意識が覚醒すると、目の前には亀裂が見えた。

真っ暗闇に浮かび上がる空間の裂け目……一体、何がどうなっているんだ?

 かつて、父上が話してくれたクリスタルの特徴――封印されたら、意識も失って死んだも同然のはずなのに、なぜか俺はこうして思考を保っている。おまけに魔力も普通にあるし……これなら突き破って外に出られるんじゃないか?


 成功するかどうかは分からないが、このままってわけにもいかない。

 

 そう判断した俺は、必死に魔力を練りあげてそれを炎へと変える。

 クリスタルの内部は青い炎で満たされていき、それに合わせて少しずつ亀裂が広がっていった。

 あとちょっと――あとちょっとで、ここから抜けだせる。

 トドメとばかりに魔力で生みだした紫色の炎を右手に集中させると、俺は亀裂に向かって勢いよく殴りつけた。

 

 次の瞬間、ガラガラと音を立ててクリスタルは砕け散る。


「ぐあっ!?」


 放りだされて背中から地面に落下。

 結構な高さがあったので少し痛かったけど……それより、あのクリスタルから抜けだせたという事実の方が嬉しかった。


「なんとかなったか……」


 起き上がり、辺りを見回す。

 感覚としてはクリスタルに封印されてからそれほど時間は経っていないと思うんだけど、こればっかりは確かめてみないことには分からない。

 それにしても……どうしてクリスタルを破壊することができたのだろうか。

 気になった俺はバラバラに砕け散ったクリスタルへと近づいた。

 すると、


「これは……ひどいな」


 粉々になったクリスタルを手に取ってみると、ほとんど魔力を感じなかった。こいつは封印をしている間、常に強大な魔力を消費しているため、定期的に魔力を供給しなくてはならないのだが……これだけ減っているとなると、かなり長い期間にわたって魔力の供給がされていなかったようだ。

 俺が助かったのは、クリスタルの管理が杜撰だったためか。


 でも、あの父上が怠るとは思えない。

 あれだけ世間体を気にしていたのだから、クリスタルが破壊されて俺が外に出てくることのないよう、幾重にも保険をかけていたはず。

 或いは――その保険がきかないくらいの年月が経過したということか?

 その時、俺はふと父上の最後の言葉を思い出した。


『殺さずに封印するのはせめてもの情け。運がよければ、いずれ再びこの世界へ舞い戻ることができよう。……少なくとも、私が亡くなったあとで、な』


 まさか、本当に父上が亡くなったのか?

 けど、闇魔法使いである俺の復活はヴェスティリス家にとって絶対避けたいはず。たとえ代替わりしても、それは継続していくと思っていた。


「……とにかく、外へ出てみよう」


 混乱する頭を落ち着かせるように言い聞かせて、俺は洞穴を出る。

 長い間あのクリスタルに封印されていたという割に、体は自然と動いた。もっとこう、足元とかふらつくと思ったんだけどな。これもクリスタルの効力なのか……まあ、今となってはそんなことどうでもいいけど。


「さて……どうしたものかな」


 名前も知らない森の中で立ち尽くす。

 

 くそっ。


こんなことなら森の外に出るためのルートを覚えるために、もっとよく目印になりそうなものとか確認しておくんだったな。


「いっそこの森に居着くかぁ……」


 ヤケクソ気味に言い放つも――なんだかそれも悪くないって思えてきたな。

 確か、この近くに小川があったはず。あれで飲み水は確保できるし、その近くには山小屋も確認できた。外から見た感じだと、誰かが使用している形跡もなかったし、普通に家屋として運用できるかもしれない。

 仮に、その山小屋がボロボロになっているようなら洞穴に住めばいい。雨風くらいはしのげるだろうし。

 

 そうと決まったらすぐに確認へ行こうと歩きだした時だった。


「きゃあああああああああああああああああああっ!」


 耳をつんざく女の子の悲鳴が、静かな森の中に響き渡る。木々から小鳥たちが逃げだすくらいの大きな声だったが……何かあったのか?

 というか、この森に女の子?

 一体何がどうなっているか――俺は全容を知るために声のした方向へと駆けだした。

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