ボッチ種族【ニンゲン】の闇魔法使いは異種族たちの支配する世界で無双する ~千年の封印から目覚めると人類は滅亡してました~

鈴木竜一

第1話 封印された闇魔法使い

 ヴェスティリス家。

 カルドア王国に生まれ育った者であれば誰もが知っているだろう魔法使いの名門。

 代々祖国の魔法兵団でトップに君臨し、王家とのつながりも強い。


ヴェスティリス家に生まれた者は幼い頃から常人以上の魔力を有しており、また、魔法を扱う技術についても天才的な資質を持った家系である。


 俺――ルーシャス・ヴェスティリスもまた、そうした一族に生まれた身として、幼い頃から魔法使いとしての英才教育を受けてきた。

 

 両親は俺を一流の魔法使いにしようとし、俺もその期待に応えるよう頑張った。


 だが、属性診断の儀式で事態は一変する。


俺は魔王の生まれ変わりと言われる闇属性だったのだ。

 結果を知った父上は大激怒。

 名門一族の名を汚す恥さらしとして、俺は学園を強制的に退学させられる。さらに、属性診断を行った神官に金を握らせて外へ情報を漏らさないよう徹底する――が、この神官はしばらくすると変死体で発見された。恐らく、さらに金を要求して消されたのだろう。


 ともかく、父上は俺の存在をなかったことにしたくて躍起だった。

 それまで長男が次期当主となるのが通例だったが、今回の件を受けて二歳下の弟・ブリングを次期当主にすると父上は宣言。俺は病気を治すため自然豊かな辺境の地で療養生活を送ることになったと表向きに発表する。


 当然、療養などする必要のない俺は父上に猛抗議をするが聞き入れてもらえず、逆に刺激をしてしまったようで――


「ルーシャス……私は貴様を封印することに決めた」

「ふ、封印!?」

「闇属性の魔法使いがこの世界に与える負の影響は計り知れない……これはもう我が家だけの問題ではないのだ」

「そ、そんな! 待ってください!」

「ヴェスティリス家の領地内に場所は用意してある……いくぞ」


 そう告げると、父上は俺に拘束魔法をかけて身動きを封じる。そのまま屋敷の使用人たちに抱えられ、馬車の荷台へと放り込まれた。そのまま何の説明もなく移動すること数時間。馬車から下ろされると、そこからは名前も知らない森の中をひたすら歩き続けた。


 父上の言っていた世界に与える影響――確かに、闇属性の魔法は普通の魔法と違う。

 魔力によって生みだした炎は青くなり、水は毒々しい緑色をしている。

それ以外の魔法も通常のものとは異質……ただ、あくまでも違うのは外見だけで、本質的には普通の魔法と変わらない。俺自身、この力で世界をどうこうしようなんて野望はこれっぽっちも抱いていない。

なんとかして父上にもそれを分かってもらおうと思考を巡らせているうちに、たどり着いたのは小さな洞穴。

 だが、小さいのは入口だけで、内部はかなり広い。

 その空間の真ん中には、見たことのないほど巨大なクリスタルがふよふよと空中を漂っていた。


 俺はこれを知っている。

 巨大な魔鉱石を特殊な技術で削り、作りあげられた牢獄。

 一度はいれば、自力での脱出は不可能とされる代物だ。


 父上は俺をここに封印するつもりらしい。


「おまえは勤勉で優秀であったが……本当に残念だよ」

「ち、父上!」

「殺さずに封印するのはせめてもの情け。運がよければ、いずれ再びこの世界へ舞い戻ることができよう。……少なくとも、私が亡くなったあとで、な」

「待ってくだ――」

 言い終えるよりも先に、俺の全身を強烈な魔力が包み込む。

 それは父上の放った魔法――あのクリスタルを発動させるためのものだ。


「さらばだ、ルーシャス。神から見放された哀れな息子よ」


 感情のこもらない声で、父上はそう告げる。

 必死にあとを追おうとしたが、拘束魔法のせいでそれも叶わず――ついに俺はクリスタルに取り込まれてしまった。


 薄れゆく意識の中、俺は立ち去っていく父上の背中を見つめるしかできなかった。







この後12:00と18:00にも投稿予定!

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