第5話
「何者だ……」
カスターに問われた男は頭巾を外す。
「お初にお目に掛かる。拙者は
「ニジュウベイ……皇国の若殿様が何の用だ」
蜂楽皇国─西方大陸より遙か東に浮かぶ島国であり、二重兵衛は将軍家の長男だ。
「奇跡の菓子を生む聖女の噂は東方にも聞こえとります。そして、聖女殿が東方人ではないかという噂もねぇ」
頭巾を完全に脱いだ二重兵衛の髪と目の色はアマナと同じ黒色だった。
「聖女殿は在るべき所へ来ていただきましょか。そいで、オーバーン焼きなるものは“蜂楽饅頭”か“今川焼き”とでも改称してもらい……むっ!?」
二重兵衛は眼前に飛来する矢を刀で打ち払う。
「殿下!アマナ!」
騒ぎを聞きパンセ・ポンセが駆けつけたのだ。
「バンセ、ポンセ……アマナを安全な所へ」
「駄目よ!あなたは王国にも私にとっても大事な人。置いてなんていけないわ!」
アマナは両掌からオーバーン焼きを出現させ、
「パンセ、ポンセ、こっちをカスターに食べさせて。そして、こっちは……」
彼女はこの世界に来てから、一度も自ら生み出したオーバーン焼きを自身で口にしていないのだ。食べようと試みた事はあるのだが、本能がそれを拒んだ。
「……ずっと、引っかかってたの……これを食べたら何か変な事が起こるんじゃないかって。でも、今はこれの力を私自身に使う時な気がする!!」
意を決してアマナはオーバーン焼きにかぶりつく。咀嚼。飲み込む。
「……………!!」
アマナの脳裏に浮かぶ
「アマナ!?」
「思い出した……私は多楼亜麻奈…高校2年生……帰宅途中に荒川線で……」
「記憶が戻ったのかい?」
「どうしました?聖女どの。大人しく投降する気になりましたか?」
「誰が……投降なんてするもんですか!」
アマナは腕を組み、仁王立ちで答える。
「クハハハ!やけっぱちになりましたか!」
二重兵衛はアマナの元へ駆け寄り、彼女の肩に右手を伸ばす。
が、その手をアマナの左手が掴み、脇下へと体を回り込ませ、右手で相手の腕を手繰り寄せながら前方へ上半身を曲げる。
「やぁーーーっっ!!」
と、発しながら二重兵衛の体を投げ飛ばす。
「ッッッ!?」
一本背負いを食らい、背中を地面に叩き付けられた二重兵衛は肺に伝わる衝撃に問え苦しむ。
「若!」
「おのれ、女ッ!!」
二重兵衛の従者である二人の忍者がアマナの元へ走るが……
「ふんっ!」
一人目はこめかみへの肘打ち。二人目は蹴り足を受け止めてのドラゴンスクリューで瞬く間に倒す。
「私の名は多楼亜麻奈!翠涼学園高校女子MMA部主将!!」
MMAとは、Mixed MarshallArtsの略称であり、日本語に訳すと総合格闘技となる。
「空手二段、柔術青带!好きなモノは大判焼きを食べながら少女漫画や恋愛小説を見ること!」
ファイティングポーズで二重兵衛を見下ろしながら、アマナは続ける。
「さあ立ちなさい、二重兵衛!あなたの相手は私よ!武器なんて捨ててかかってらっしゃい!!」
二重兵衛は刀を杖のようにして体を支えながら立ち上がり、片足で刀を蹴り倒し地面に転がした。
「強く、美しき女……是非とも我が手中に収めとうなりましたぞ、聖女アマナよ!!」
「あら嬉しい。でも、私はあなたみたいなインテリ系よりカスターみたいな美少年系が好みなの!私を振り向かせたければ……拳で語りなさい!!」
アマナは二重兵衛の元へ疾駆する。
「
アマナの放つ左右の掌底と蹴りが二重兵衛の眉間、顎、鳩尾、金的を連続して打ち抜いた。
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