3︰はじめてのバトル

『警告! 封印対象の精霊が契約を交わしました。ただちに危険レベル2に上げ、対処を開始します』


 対峙するブラッディゴーレムはガッチンと拳にした両手を叩き始める。


 途端に感じたことがない魔力が放たれ、周囲に転がっていた石ころが集まっていく。

 いや、石ころだけじゃない。

 大地や生えている草花、どこかから飛んできた宝箱に動物の骨など様々な物体がブラッディゴーレムの身体に取り込まれていった。


『フェーズセカンドに移行完了。これより対象の再封印に取りかかります』


 ブラッディゴーレムの赤い巨躯が変貌し、頭や肩にはツノのようなトゲが生えていた。


 いや、それだけじゃない。

 先ほどよりもブラッディゴーレムの身体が三倍ほど大きくなっていた。


 遥かに大きな身体へ変化したブラッディゴーレムは、僕を睨みつける。

 それはとんでもないプレッシャーで、思わず足が震え竦んでしまうほどだった。


 こんなモンスターに勝てるのか?

 そもそも上級冒険者が苦戦する相手だ。

 普通に戦っても簡単にやられる。


『何ビビってるんだよっ?』


 僕がブラッディゴーレムに恐怖を抱いていることに気づいたのか、ラディッシュが元気づけるように声をかけていた。


『あんな奴、オイラのスキルを使えば敵じゃない。それに今のお前は【精霊なしノーティ】じゃない!』


 ラディッシュに言われ、僕は気づく。

 そうだ今の僕には、頼もしい相棒がいる。

 確かに目の前にいるゴーレムは強いだろう。でも、必要以上に恐れる必要はない!


『さて、そろそろ腹ごしらえしようか。おい、お前、胸を叩いてみろ!』

「え? こう?」


 言われた通りに胸を叩いてみる。

 すると途端に視界の右端に様々な言葉が表示された。


 なんだろう、と思いよく見てみるとそこには【レベル5︰異常なし】【モード︰連携攻撃】【ターゲット︰ブラッディゴーレム】【精霊スキル確認】といった文字が並んでいた。


「これは?」

『お、見えたか。お前才能あるな。ま、それはオイラのパラメーターさ。詳しい説明は後にするけど、そのパラメーターを見ればオイラが何をしているのか一発でわかるって仕様だ』


「へぇー、パラメーターか。みんなこれを見て戦っているんだ」

『みんながみんな見える訳じゃないぞ。ま、それも含めて後で説明するよ』


 ラディッシュはブラッディゴーレムに振り返り、戦闘態勢を取る。

 僕は腰に携帯していた短剣を抜き、ブラッディゴーレムの攻撃に備えた。


 そんな僕達を見て、ブラッディゴーレムは体勢を低くする。

 足に力を溜めているのか、接している地面が割れた。


 いよいよ始まる。

 そう思った瞬間、ブラッディゴーレムが僕に突撃してきた。


「速い!」


 それは電光石火と言える突撃。

 だけど不思議なことに、僕の目はブラッディゴーレムをしっかりと捉えていた。


『攻撃を開始します!』


 僕は突き出された拳を屈んで躱す。

 そのまま懐へ潜り込み、ブラッディゴーレムの胴体に短剣を突き立ててみた。


 だけど、いや当然のように刃が通らない。

 それどころか刃が欠けてしまった。


『やるな! オイラも負けていられないぞ!』


 僕の動きを見てラディッシュが頼もしく笑った。

 突き出された拳にラディッシュは飛びかかる。

 そして猫特有の鋭い爪を剥き出しにし、腕を一気にズタズタに切り裂いた。


 思いもしないことだったのか、ブラッディゴーレムはラディッシュの攻撃で若干怯む。

 ラディッシュはそれを見て、僕に叫んだ。


『モードを必殺技に変えてくれ!』

「モードを変える?」

『オイラにそう指示を出してくれれば勝手に切り替わる。早くしてくれ!』

「わかった。必殺技をお願い!」


 僕はラディッシュに指示を送る。

 すると視界の端に表示されている【モード︰連携攻撃】が【モード︰必殺技】に切り替わった。


 直後、ラディッシュが大きな口を開く。

 そのままズタズタにしたブラッディゴーレムの腕に噛みつき、一気に食い尽くしてしまった。


 というか、モンスターを食べたよこの精霊!?


『ふむ、やっぱり典型的な土の味だな。お、ちょっとコーヒー風味がある。まあ、マズいけど食べられなくはないかな』


 ラディッシュがくちゃくちゃと音を立てながらブラッディゴーレムの腕を味わっていた。

 僕はそんなラディッシュを見て、若干引いた。


 土の味って何?

 というかコーヒー風味ってどういうこと?


『ご馳走さまでした』


 僕の疑問をよそに、ラディッシュは満足そうに手を合わせる。

 ふと何気なく視界の端を見ると、【精霊スキル】という文字が光っていた。


 思わず見つめていると、途端にこんな文字が表記される。


【ラディッシュの精霊スキルが発動しました】

【契約者レオスの基本ステータスが全体的に+100底上げされました】

【ラディッシュの満腹度が10上昇しました】


 なんだこれ?

 え? 底上げってどういうこと?

 もしかして、僕は強くなったのか?


「オォオオオォォオオオオオォォォォォォォッッッッッ」


 そんなことを考えていると、ブラッディゴーレムがお腹を叩いて満足そうにしているラディッシュに殴りかかろうとしていた。


「危ない!」


 僕は咄嗟にラディッシュを守るために入れ替わる。

 迫りくる巨大な拳だが、不思議なことにゆっくり動いているように見えた。


 もしかしたら、止められるかもしれない。

 僕は試しに右手を拳に変え、合わせるように突き出してぶつけてみる。


 するとあんなにも恐ろしかったブラッディゴーレムの拳が、簡単に砕け散った。


「はっ?」


 思いもしない出来事に、僕は思わず間の抜けた声をこぼした。

 ブラッディゴーレムはというと、叫ぶことをやめてそのまま仰向けに倒れてしまう。


 何が起きたのか。

 わからずに立ち尽くしていると、そんな僕を見たラディッシュがゲラゲラと笑い出した。


『アハハッ、ずいぶんと強くなったな!』

「な、何が起きたの?」


『オイラのスキル【喰らう者】の影響さ。オイラはモンスターでもなんでも食べることができる。そして食べた分だけオイラと契約してる奴を強くできるんだ。お前も、その影響を受けたって訳さ』


「そうなんだ。それにしては強くなりすぎた気がするけど……」


 ま、まあ、僕は元々弱かったしな。

 もしかしたら、それもあってとんでもなく強くなったのかもしれない。


 何はともあれ、ブラッディゴーレムを倒した。

 ラディッシュの協力があったけど、初めてのバトルで強敵を倒せたんだ!


「やった、やったー!」


 だんだん実感が湧いてきた。

 上級冒険者が苦戦するモンスターを、僕は倒せたんだ!

 これを喜ばずにいつ喜ぶ。

 嬉しい。嬉しすぎて踊っちゃうよ!


『おいおい、喜びすぎだぞ。というか両腕はなくなったけど、まだブラッディゴーレムは生きているぞ』


 ラディッシュがそう僕に注意する。

 僕はすぐに冷静さを取り戻し、倒れているブラッディゴーレムへ目を向けた。


 だが、そこにいるはずのブラッディゴーレムの姿はない。


「あれ? どこに行ったんだろ?」


 僕が踊っている間にブラッディゴーレムが消えてしまった。

 ひとまず周りを見渡してみるけど、あの赤くて大きな身体は見当たらない。


 本当にどこへ行ったんだろうか?


「きゃあぁあああぁぁぁぁぁ!!!」


 僕がそう頭を捻っていると、どこかから悲鳴が聞こえてきた。


 まさか、と思い悲鳴が聞こえた方向へ走る。

 駆けつけるとそこはいくつか段差があり、見下ろすと腕を再生させたブラッディゴーレムが一人の女の子を襲っている姿を見つけた。


「ホムン、無茶しないで! シーズ、ハヤの回復に専念して! モンド、ホムンのフォロー頑張って!」


 長い銀髪をなびかせつつ、動きながら四体の精霊に女の子は指示を飛ばしていた。

 そんな女の子にブラッディゴーレムは容赦なく飛びかかる。

 女の子は懸命に応戦しているが、ジリジリと追い込まれている様子だった。


『ありゃあ。こりゃ大変そうだな。どうする? 助けるか?』

「うん。助けよう」


 僕がちゃんとトドメを刺さなかったからあの子が大変な目に合っちゃったしね。

 それに、バトルにちょっと自信がついた。


「ラディッシュ、行こう。僕達で、今度こそちゃんとブラッディゴーレムを倒すんだ」

『りょうかい、契約者さんよ』

「レオスでいいよ、ラディッシュ」

『りょうかい、レオス!』


 僕は向かう。

 逃げてしまったブラッディゴーレムを倒すために。

 ラディッシュからいろいろ学びながら、もう一度ブラッディゴーレムとの戦闘を始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【精霊なし】と馬鹿にされていた少年、封印精霊と出会いSSSランク冒険者へ駆け昇る ~クーデレ少女を助けたら一緒にダンジョン制覇することになった~ 小日向ななつ @sasanoha7730

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画