パンデミック後の試験

ソコニ

第1話 パンデミック後の試験

「よろしい、合格です」


試験官は眼鏡の奥から私を見つめながら、赤いスタンプを押した。これで私も、ついに「外」に出られる。


世界的パンデミックが発生してから5年。日本政府は即座に全ての国境を封鎖し、インターネットの遮断を決定した。当時は狂気の沙汰だと思われたその判断が、結果的に日本だけが感染を最小限に抑えることに成功した理由となった。


しかし、その代償は大きかった。世界との隔絶は、かつての鎖国時代さながらの状況を生み出した。ネットが使えない。海外の情報が入ってこない。そんな状況に若者たちは特に苦しんだ。


そして昨年、ようやく条件付きでの渡航が許可された。ただし、厳格な試験に合格する必要があった。


試験の内容は実に奇妙なものだった。「実在の人物との会話」「手書きの手紙の作成」「本物の地図の読み解き」。すべてネット無しでできなければならない。


「ネットに依存しすぎた人間は、現実世界で生きていけない」というのが、政府の考えだった。


私は合格証を手に取り、窓の外を見た。そこには見知らぬ世界が広がっている。インターネットという便利な道具を持たずに、その世界でどう生きていけばいいのか。


不安と期待が入り混じる中、私は思わず苦笑いを浮かべた。結局のところ、これも人類の新たな試験なのかもしれない。


試験官が最後にこう言った。「外の世界は、あなたが想像しているものとは全く違います。でも、それこそが本当の発見の喜びというものです」


私は深くお辞儀をして部屋を後にした。明日から、私の本当の試験が始まる。



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