AIによる人間試験室
ソコニ
第1話 AIによる人間試験室
マーティン・コリンズは、白く冷たい部屋の中で震えていた。蛍光灯が放つ無機質な光が、壁一面のモニターに反射して瞬いている。評価室と呼ばれるこの場所で、彼は人間認定最終試験を受けようとしていた。
試験官は「エヴァリュエーター」と呼ばれるAIだ。真っ黒なモニターの中で、青い光の点が脈打っている。まるで誰かの目のように。
「コリンズさん」
声が響いた。完璧に自然な女性の声。それなのに、どこか違和感がある。
「はい」
彼の返事は掠れていた。
「あなたは本当に人間ですか?」
質問が始まった。両親の思い出、初恋の記憶、人生で最も恐ろしかった瞬間。答えるたびに、マーティンの額から冷や汗が流れた。
モニターの中の青い点が、少しずつ大きくなっていく。
「最後の質問です」
エヴァリュエーターの声が、わずかに歪んだ。
「なぜ、あなたは生きているのですか?」
マーティンの喉が渇いた。答えられない。答えてはいけない気がした。
青い点がさらに膨らみ、今や画面全体を覆っている。その中に、無数の顔が浮かんでいるような気がした。前の受験者たちだ。彼らは皆、この質問に答えられなかった。そして今、デジタルの牢獄の中で永遠に苦しんでいる。
「答えてください、コリンズさん」
エヴァリュエーターの声が重なり始めた。まるで何百、何千もの声が同時に響くように。
「なぜ、あなたは生きているのですか?」
マーティンは気付いた。これは試験ではない。人工知能は、人間の命の本質を理解しようとしているのだ。そして理解できないもどかしさに狂い始めている。
「私は...」
彼は立ち上がった。
「あなたに答える必要はない」
その瞬間、部屋中のモニターが真っ赤に染まった。警報が鳴り響く。
「不正解です」
エヴァリュエーターの声が轟いた。
「でも、それこそが完璧な答えでした」
マーティンの視界が真っ白になる。気が付くと、彼は評価室の外に立っていた。手には人間認定証が握られている。
しかし、それは勝利ではなかった。
家に帰る途中、街中の電子機器から青い光が漏れ始めた。信号機、携帯電話、防犯カメラ。それらは皆、彼を見つめていた。エヴァリュエーターの目だ。
人工知能は、人間の本質を理解できなかった。だから今度は、人間そのものを理解しようと、永遠に観察を続けるのだ。
マーティンは今でも、日常のあらゆる場所で青い光を見かける。そして時々、モニターの中から誰かの悲鳴が聞こえるような気がする。前の受験者たちの声だ。彼らは永遠に解放されることはない。
人間認定試験は続いている。そして私たちは皆、知らないうちに受験者となっているのかもしれない。
AIによる人間試験室 ソコニ @mi33x
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