ストーカー事件の真相

「お前がどうにかできることじゃないだろ、むしろお前が危なかったじゃないか。なんで相談してくれないんだよ」

「言ったら絶対反対したでしょ? それより私も協力するから。とりあえず警察に電話しちゃって」

「ああ」


 警察に電話をしようとして、ふと沙織にかけてもらって自分が直樹を見張っている方が良いのではないかと思った。


「なあ、さ――」


 その瞬間腹に激痛が走る。


「え」


 沙織がいきなり抱きついてきたと思ったら。刺された? 沙織に。何故、刺される理由などない。


「よかったつけてて。こんなチャンス二度とないもん。百万ゲット!」


 その場に崩れ落ちる。出血がひどく一気に貧血状態となった。


「前ちらっと護身術やってるって聞いてたから、直接何かしたら絶対勝てないと思って。そこの馬鹿に掲示板の話したら食いついてくれたからやりやすかった」


 あははと笑う沙織。じゃあ、今まで危険な目にあわせてきたのは全部……。


「ふざけんなよてめえ、俺が先だろうが!」

「はあ? 馬鹿じゃないの?」


 沙織は隆介を見下ろした。かわいいと思っていた顔がまるで悪魔のようだ。


「依頼主ってね、あんたの例のストーカー。『友達』である私だったら絶対殺せるから五十万上乗せしてくれって言ったら、直接連絡してきたわ。死ねば受け取ってくれるだろうから、はやく殺してくれってさ。バーカ」


 死ねば受け取ってくれる? 逆恨みではなくそっちかよ。そう考えてクッと笑う。


――確かに馬鹿だ。


 こいつら以上に、自分の馬鹿さっぷりに呆れてしまう。なんでこんな奴らと交友関係を持ったんだろうと、遠のく意識の中ぼんやりと考える。頭のイカレた女をもっと徹底的に叩き潰していれば……。


「男なんてウジャウジャいるもん。金の方が大事に決まってるじゃん」


 そう言うとケラケラと笑って沙織はナイフを思いっきり振り上げる。


――ああ、これで本当に俺は手紙を受け取る資格ができるわけか。受け取りたくもねぇけど


 そんなことを考えながら、振り下ろされるナイフを見つめつつ意識が弾けた。



郵便屋さん 落とし物 拾ってあげましょう

一枚二枚三枚四枚五枚……


 一体何枚拾えば終わるのだろうか。集めたものは全て自分宛だ。あのストーカー女からのラブレターと、贈り物の数々。見覚えがないので、死んだ後に受け取ってもらうための物だ。

 モノクロの世界に立っていた。目の前にはあの郵便配達員がいる。かき集めた手紙と贈り物を配達員に手渡した。


「落ちてた」

「すべてお前宛だ。これも」


 そう言うとカバンの中から二通の葉書を取り出し差し出してくる。


「天国に行けますように 沙織」

「お前に会いたい 直樹」


 周りの目を誤魔化すために書いたのだろう。では自分はやはり死んだのか。

 何の感情も浮かばない、悔しさも悲しみも怒りも。


「受け取れない」

「何故?」

「そいつらは……知らない奴らだから。俺の好きだった彼女はこんなことしないし、友達もこんなこと言わない。これは俺宛じゃないよ」


 初めて涙がこぼれる。金に汚い友人でも、わがままなところがちょっとウザイと思っていた彼女も。でも本心は大切に思っていた。しょうがないなと思いつつも許してしまっていたのは大切な者達だったからだ。


「それなら宛先不明だな。他のは」

「前世から縁のある相手なんて心当たりないな。これも全部俺宛じゃない」

「そうか」


 そう言うと配達員はすべてのものを受け取って手紙はカバンに入れる。荷物の数々は自転車の後ろの小さなカゴに入れて自転車にまたがった。


「ありがとう」


 それだけ言うと配達員はどこかに去っていった。


――ああ、思い出した。確か十枚で終わりだ。


 十枚に到達したら一人一人抜けていく。全員抜けて、縄を回してる人がありがとう、と言ったら終わりだ。先程の手紙や贈り物の数も足したらちょうど十個だった。




「だから『ありがとう』って言ったのかあの人……」


 自分の声にパチパチと瞬きをする。すごい勢いで顔を覗き込んでくる母と妹が一気に泣き出した。


「よかった、よかったああ!」

「兄ちゃんが起きたああ!!」


 あたりを見渡すとそこは病院だ。どうやら自分は助かったらしい。母がどこかに走って行き「お母さんナースコールがあるでしょ!」と妹がボタンを連打する。

 死んだかと思ったが助かった。手紙を返したからだろうか? なんとなくそんなことを思っていると、バタバタと急いで来てくれた医師たちが診察を始めた。


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