郵便屋さん 落とし物
aqri
拾った手紙
郵便屋さん 落とし物 拾ってあげましょう 一枚 二枚 三枚 四枚
これ何枚までいったら終わりなんだっけ?
「そちらで処分してください、はい、よろしくお願いします」
そう言って隆介は電話を切った。およそ三ヶ月にわたるストーカー被害、相手から一方的に送られてきたものは証拠品として警察が預かっていたのだが。厳重注意をして今回の対応は一旦終わりということで、預かったものはどうするかと連絡が来たのだ。
相手は金持ちらしくブランドバックや時計など、高価なものを送ってきた。それも一方的にだ。手紙は気持ちの悪いポエムのような内容ばかり。
これはストーカー被害じゃないかということで警察に相談し、送られてきたものは全て取っていたのだが。
「もったいねぇなぁ、売れば金になるだろ」
「冗談じゃない、気持ち悪い」
友人の直樹の言葉に顔を顰めてそう返す。いつまでたっても姿を見せないので放っておこうと思ったら、先日とうとう直接物を持ってきた。雨の日に傘を貸してくれたと言っていたが全く記憶にない。人違いではないかといっても人の話を聞きもしない。自分の言いたい事を一方的にしゃべり続けるので、頭に来て怒鳴った。
「俺付き合ってる人がいるんだよ! 迷惑だからやめろ!」
そう言った途端に急に態度が変わって半狂乱で暴れだしたのだ。やっと警察の対応ができるようになったので一件落着である。
「イケメンは辛いね」
「はいはい」
隆介はモデルのように見た目が良い。直樹の口癖のようなものだ、外見いじりは。
「お前がいらないんだったら俺にくれれば売って金にするのに」
「こういうのは処分って形で区切りをつけたいんだよ。お前ギャンブルいい加減にしないとマジ破産するぞ」
「やめてー、説教は母ちゃんだけにして」
「そう言うんだったら貸した金返せよアホ」
どうせ返ってこないだろうなと思っている。息をするように金を無心してくるやつは借りてると思っていない、もらったという認識だ。これからバイトがあるので隆介はじゃあなと言ってそのまま歩き出した。
いつも通っている寂れた公園の前の道。そこを通ったときに手紙のようなものが落ちているのに気づいた。
「あ?」
拾ってみると、それはなんと自分宛の手紙だ。送り主は……あのストーカー女だった。頭にきて破り捨ててやろうかと思ったが。
目の前に郵便配達員の男がいる。一瞬違うのではないかと思うくらい、見たこともない格好だ。制服は全身真っ黒、しかも昭和の映画にでも出てきそうな古い自転車が近くに停めてある。ポストを開けて中の手紙を回収していなければ、配達員だとわからないほどだ。
(まさか落とした? ありえないだろ)
うっかりミスにもほどがある。捨てようかと思ったが、後で何か責任問題になっても嫌なので渡すことにした。
「あの、これ落ちてましたけど」
すると配達員はゆっくりと隆介を見た。まるで化粧をしているかのように真っ白い顔、目元まで深くかぶった帽子のせいで表情が全くわからない。しかもいつの時代だと思うようなガマぐちのカバンを首から下げている。
配達員はじっと隆介を見つめているようだ。なんだよ、という言葉を飲み込んでしまうほど。まるでナイフを首元につけられているようにピンと張り詰めた空気。
「どうも」
静かに言うと手紙を受け取ってカバンにしまった。奇妙に思いながらもなんとなくその姿を見つめてしまう。配達員はポストをしめてそのまま自転車にまたがると、どこかに走り去っていった。
今の配達員ポストの鍵をかけていなかったのではないか。なんとなく気になってポストの扉を開けようとしたが。
そのポストは錆びてしまっていてびくともしない。しかも投函口にはガムテープが貼られていて「現在使われていません」と書かれていた。
「なんだよ、これ」
交差点で信号待ちをしているとアプリの通知が鳴った、直樹だ。
『言い忘れた、知り合いがモデルやらねえかって言ってきてんだ』
正直全く興味がない。そう返事をしようとした時だ。とん、と背中を押された。え、と思った時には二、三歩前に踏み出していた。激しいクラクションとともに車が突っ込んでくる。
(なんで――)
次の瞬間ものすごい力で後ろに引っ張られた。引っ張ってくれたのはかなり体格の良い男性だった。確か隣にいた人だ。
「大丈夫か!?」
いきなり目の前に飛び出したので咄嗟につかんで引っ張ってくれたそうだ。危うく死ぬところだった、その事実に震える。
「君、今誰かに押されなかった? 自分で飛び込もうとしたにしてはなんか変な出方したから」
「あ、はい」
放心状態で何とかそれだけ返事をした。警察に言おうにも証拠はないし誰がやったのかもわからない。確実なのは誰かが自分を殺そうとしたということだ。
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