5
「用事ってなんだ?バイトか?」
助手席に座り、久しぶりに父さんの運転している姿を眺めているとそう聞かれた。
「いや、バイトじゃない」
「お、じゃあ彼女か?」
「は!?違うし。彼女ではないし……」
「なるほど、とりあえず女ってことはわかった」
「…………」
ぐうの音も出ない。
やっぱり父さんにも母さんにも勝てない。
「懐かしいな。陽向が助手席に座りたいって始めた頃が。確か、4歳の時だったな」
急に思い出話を始める父さん。
といっても、そんな昔のことは覚えていないので何も知らないまま話を聞く。
父さんの隣に座っていたのが物心ついた頃から当たり前だったから。
自分しか使わないチャイルドシートがついていたのも覚えている。
「その前までずっと後ろに座っていたのに、急に『お父さんの運転しているとこ見たい!』って言い出して、わざわざチャイルドシート動かすのが面倒だったなぁ。しかも、ショッピングモールの駐車場で。その前は母さんの特等席だったのに」
普通に聞いていたらただの小話だが自分の話となると恥ずかしくなる。
覚えていないと余計に。
「少ししてから、『運転できるようになりたい。自分の車で、お父さんに助手席座ってもらう』って、あの時は嬉しかったなぁ。でもな、陽向」
急にこっちを向いて父さんと目があう。
「助手席には俺みたいにいい彼女でも妻でも乗せてやれ。いつか子供にも座らせてあげろ。俺だって孫の姿は見たいからな。あ、もちろん俺も座らせてくれよ」
「……わかった」
免許も車もいらないと思っていたけど、やることが増えてしまった。
それに……やっぱ結婚した方がいいか。
あまりそんな願望はなかったけど。
「あ、ここ」
アパートの前につき、車を止めてもらう。
「陽向くん!」
「え?」
なぜかアパートの前にいるまい。
車から降りて、まいの元へ向かう。
「ドアの前待ってるんじゃなかったけ」
「怪しまれるかなーって思って」
久しぶりにあったまいは前よりも変装が濃くなっているようで、まいの認知度が上がっているのを感じる。
「こんばんは。陽向の父です」
「初めまして、こんばんは。一色まいと言います。陽向くんとは同じ大学で、仲良くさせてもらってます」
「そうか。陽向にガールフレンドなんて、明日隕石が落ちてきそう……ん?」
ふと、父さんがまいの顔をまじまじと見始めた。
あ、ばれた!?
「……どうかしましたか?」
「いや、どこかで見たことあるような気がして……」
「と、父さん!送ってくれてありがとう。ちょっと急いでるからまた今度」
「あ、あぁ。たまには帰ってくるんだぞー」
「うん。わかった」
やっと父さんが帰り、まいと一緒に部屋へと向かう。
「ごめんな。父さんノリがうざい奴だから」
「そんなことないよ。面白い人だったよ」
鍵を使ってドアを開けると真っ先にまいが部屋に入る。
「あぁ〜、やっぱり落ち着く〜。なんでこんなに落ち着くんだろうね」
「まいが物好きだからじゃない?」
「あはは、そうかも」
まいが笑いながらちょこんと床に座る。
「あ、お父さんとお母さんになら私のこと言ってもいいよ。陽向くんにはお世話になってるから」
「……そう」
久しぶりのベッドに腰掛けるとまいもその隣に座る。
「……で、話って?」
「そんなド直球に聴いちゃうんだ。もうちょっとムード楽しもうよ」
「ムードも何もないだろ」
あはは、とまいが笑ってふぅと息をはく。
「ドラマだったら、女の子の心配しながら飲み物出したりやさしい言葉をかけてあげるもんなんだよ〜」
「そう言うの知らないし」
「だよね。陽向くんはそうだろうねって思った。知ってたら逆に引いてたかも」
「じゃあなんでいったんだよ」
「未来の陽向くんへのテクニック紹介かな?」
「どう言う意味だよ」
「陽向くんも彼女作った方がいいと思うからね〜。陽向くんみたいな優良物件中々居ないのになんで女子たちは気づかないのやら」
「優良物件って……ん?」
陽向くん"も"?
「え?ちょっと待って、まいって彼氏いるの?」
「いないよ」
「あ、なんだ」
あくまで芸能人だし……もし彼氏ができるとすればイケメンなんだろうな。
「……まぁ、そんな優良物件な陽向くんに大事な相談があります」
「……………何?」
さっきまでわちゃわちゃ(?)と話していたのに、まいの一言で急に空気が重くなる。
「大学、そろそろ単位やばい。卒業できないかもしれない」
「え?」
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