第15話
確認したり、署名したりと細かい作業を終える。
俺たちは料理屋のテーブル席で会議を始めた。
「余ったお金はどうします?」
「パパッと戦力を強化したい。装備の更新とか、臨時メンバーの雇用とか」
「臨時メンバーの雇用」
リンカが微妙にむくれる。
一蓮托生とか言っといて、舌の根も乾かぬうちに増員の話だ。
「デザートタイガー戦を思い出せ。俺たちには何もかも足りない」
「初心者とエセ初心者ですからねぇ」
特に盾役と回復職の確保は急務だ。
前回は俺が代理でもたまたま上手くいった。
だとしても、できると向いてるはまったく別の話。
俺にタンクは無理だ。戦いになると楽しさが先行してしまう。
回避もせずに無駄に殴られる役立たずになりそう。
「リンカは今後どうしていきたい?」
「しばらく前衛か中衛ですかねー。色々な可能性を試してみたいので。槍以外の武器も使ってみようかと」
要望は丸呑みする。なんたって彼女は天才。
クラスもスキルもにょきにょき生えていくはず。
「ならば本職の盾役を優先雇用だな」
「毎回お金を払うのはもったいない気がしますけど」
「そこは命の値段と割り切るしかない」
問題は初心者ふたりのお試し道楽みたいなスタイルに付き合ってくれる人がいるかどうか。
ネットゲームなら奇特な人もいるけれど、ここは現実。
誰しも命と生活がかかっている。
「どこかに無料で実戦訓練を手伝ってくれる盾役とヒーラーでもいればなー」
「さすがに贅沢言いすぎですよぉ」
「だよなー。そんな都合のいい存在なんて簡単に――」
くいっ、くいっ。
遠慮がちに袖を引かれる。黙って聞いていたサクローだ。
彼女は人差し指を口の左右に当てて、ニコニコと首をかしげた。
――――――――――――――――――――
【サクロー・カルデア】
【職業:冒険者】
〈クラス:クルセイダー(Lv4)〉
〈スキル:盾防御(Lv4)神聖魔法(Lv4)〉
――――――――――――――――――――
い、いたー!
経験者で、しかも盾役とヒーラーを兼務できそうな人材がっ!
「いや、でも。君はお使いで呼ばれたんじゃあ」
「おそばに置いてくださらないのですか?」
ハイライトのない目がしょんぼりする。
「修道院はどうすんの」
「使命の旅に出る、と告げてきました」
サ、サフィリア様ー!
アニメ見たさの説明不足にひとりの人生が狂わされてますよー!
いくらなんでも覚悟ガンギマリすぎるって。
神託を受けた瞬間に人生すべて投げ出してきたのかよ。
俺とサフィリア様の会話はやる気ゼロだったのに。
これは責任重大だ。
「ありがたい話だけど、俺たちはGランク冒険者。資金に余裕はないぞ?」
「お金など! フェル様をお支えするのがわたくしの使命です」
「むむむ、なんだか危ない雰囲気がします」
「それに――」
サクローはジト目で警戒態勢のリンカに聖典を示す。
「リンカさんは神を誤解している様子。サフィリア様の素晴らしさをたっぷりお伝えしませんと」
「にゃっ! さっきの聞こえてたの!?」
「フェル様の手前、言いにくいですけど」
彼女は底知れない余裕をたたえて穏やかに微笑した。
あーだこーだと会話を重ね、最終的にはリンカが折れる。
「お試しで一緒に戦ってみよう」
「しょうがないですねー。私、先輩ですからね?」
「よろしくお願いいたします。リンカ先輩」
「後輩ちゃんがどんなもんか見届けてあげますよ!」
急に調子に乗り始めたな。
盛大にフラグが立った瞬間である。
近くで帳簿をつけていたバザーの頭目が話に加わってくる。
「戦いが必要か? だったら頼みがあるんだが」
「頼み?」
彼は机に地図を開く。
「うちはお外で手広くやっててな。そろそろ仕入れの期限なんだが、ある手下……ごほん。部下の荷物がいつまで経っても届かねえ。様子を見てきてほしいんだ」
手下って言いましたよこの人。
リンカが俺に隠れて恐る恐る尋ねる。
「連絡と確認だけで戦いになるんですか?」
「横領してればそいつらは敵だ。横領してなきゃ他の敵が絡んでる」
「アバウトだな~」
「タダとは言わない。商品を確保したら好きなもんを持ってっていいぜ」
「ちなみに中身は?」
彼は腰に吊るしたシミターを叩く。
「なるほど」
「フェル様、ぜひ受けましょう。同志を害する神敵に裁きを!」
ふんすと拳を握りしめるサクロー。
意外にリンカも乗り気だった。
「盗賊退治はランク昇格に有利だって聞いたので!」
それならいっちょやってみるか。
人間相手の戦いも慣れとかないと。
「決まりだな。案内をつける。西門を出た先の小屋で合流してくれ」
俺たちは頭目の依頼を引き受け、地下のバザーから地上へと這い出るのだった。
携帯食の用意をすると、西門から町の外へ出る。
俺は小高い丘を上る最中に振り返った。
陽光を反射するリグノワの港はのどかで明媚で風流だ。
さて、反射を眺めるのはやめて、反社のほうを見るとしますか。
「あれかな?」
まばらな林の影に小屋が隠れている。
近づくと数人の男たちが武器を手に現れた。
一番偉そうなのに超鑑定。
――――――――――――――――――――
【カンタ】
【職業:犯罪者】
〈クラス:山賊(Lv3)〉
〈スキル:剣術(Lv2)〉
――――――――――――――――――――
どうやら頭目の手下のようだ。
「なにもんだ!?」
「サフィリア様の神官です。バザーの顔役がここへ赴くようにと」
「あ~? 何言ってんだテメェ?」
話が通じないタイプか?
それともバザーの情報は秘匿されているのだろうか。
俺はサクローの前に出て彼らに手を振った。
会話とは、相手に理解できる言語でするものだ。
「あんたがカンタだな。俺らはザンバさんの使いだよ」
「お頭の!」
「宙ぶらりんな荷物の様子を見てこいって」
「マジかぁ……。お頭、怒ってた?」
「ブチギレてた」
山賊の下っ端は頭を抱えた。
青い顔でうろたえながら唇を噛む。
「まずったなぁ。どうすりゃいいんだ」
「何か問題?」
「いやいやいやいや! こっちの話だ。お頭にはすぐに届けると伝えてくれ」
あ、これは何かトラブルがあったな。
こちらも依頼だ。はいそうですか、と帰るわけにはいかない。
「もし、あなたたち」
サクローが下っ端に話しかける。
「お困りでしたら我々が力になります。神に誓って他言はしませんから、事情を聞かせてくれませんか?」
聖印を握る姿からは後光が差しているかのようだ。
「あんたには関係ねえ」
「わたくしとて神官の端くれ。迷える子羊を見捨ててはおけません」
「シ、シスターさん……!」
他の山賊たちは涙目でその場にひざまずいた。
「お願いだ! どうかアニキを助けてくれ!」
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