第7話


 翌日の夜明け。

 俺たちは岩場のダンジョンにリベンジするべく集合した。


「どうもどうもー。かわいいリンカちゃんですよー」

「君ちょっとキャラ変わりすぎじゃない?」

「女には色んな顔があるんです。あれ、装いが」


 リンカはこちらを上から下まで眺める。

 そう、実は昨日の帰りに追加で装備を買った。


 短槍とロングコートだ。

 短槍といっても長剣よりはリーチがある。

 昨日はひとりで複数の敵と戦う場面が多かった。

 カバーする仲間がいない間は視野を広く持てる武器にしておきたい。


 ロングコートは魔法の糸が裏縫いされた一点もの。

 なるべく広い部位を守りたくなったので買った。


「双方しめてお値段12万ゴールドなり」

「じゅうにまん……大きなお買い物」

「後悔はない」


 財産の半分が消し飛んだ?

 選ぶのが楽しかった点を含めて必要経費ってことで。


「それじゃあ行きましょー!」


 本日の攻略が始まった。

 ゴブリンや巨大ガニを蹴散らしつつ進んでいく。

 やはり槍を買って正解だった。


 最初は盾がないのは怖いかもと思っていた。

 だが、敵の動きを見てから避けられるのはアドバンテージが大きい。

 せっかく盾を持っていても、目の前の敵しか見れないと意味ないしな。

 狙って急所を攻撃しやすいのも地味にいい。


 デメリットを上げるならフットワークが激しい。

 体力をつけないとダメだな。


「オラァ!」


 巨大ガニのハサミを避けてカウンターで突き刺す。

 今のところノーダメージ。

 昨日よりもずっとスムーズだ。


「また完勝。未来は明るいですよー!」

「おい引率」

「だ、だってぇ。もうポーションなくなりましたし」


 リンカは早々にMP切れ。

 ただの応援係になっている。

 皮肉のひとつでも飛ばそうかと振り返る。


「スミマセン、本当……」


 うーん。やめておこう。

 笑顔を浮かべてはいるが、本気で申し訳なさそうだ。

 自分を責めてる人を追い詰めるのは趣味じゃない。


 しばらく戦っていると初見の魔物が現れた。


――――――――――――――――――――

【コボルト】

【職業:魔物(ダンジョン)】

〈HP:39/39〉

〈スキル:連携(Lv1)〉

 二足歩行で武器を扱うイヌ科の魔物。

 連携を得意とするが知能は低い。

――――――――――――――――――――


「わんこ! わんこが立ってる!」

「落ち着いてくださいフェルディさん。あれは魔物ですよ!」


 言われてみればあんまりかわいくない。 

 一瞬我を失いかけてしまった。

 八つ当たり気味に槍を突き刺す。


――――――――――――――――――――

【コボルト】

【職業:魔物(ダンジョン)】

〈HP:20/39〉

――――――――――――――――――――


 弱そうな姿に反してけっこうタフだ。

 棍棒の振り下ろしを槍の柄で弾く。

 今度は腰を入れて突いた。


――――――――――――――――――――

【コボルト】

【職業:魔物(ダンジョン)】

〈HP:3/39〉

――――――――――――――――――――


 さっきよりもダメージが減ってるんだが!

 力みすぎたか。ならもう一発。

 こちらが槍を握り直すと、コボルトは哀れな鳴き声を上げた。


「命乞いか? 悪いけど――」

「ち、違います! これは仲間を呼んでるんです!」

「なんだって!?」


 超鑑定を発動する。


――――――――――――――――――――

〈スキル:連携(Lv1)〉

 周辺の仲間を呼び寄せる。

 効果が発動した仲間はお互いを助け合う。

――――――――――――――――――――


 そういうこと。スキルを使ったんだ。

 周りから4匹のコボルトがやってくる。

 集結する前に瀕死の敵へトドメを刺し、手近なほうへ駆けた。


 喉を狙って槍を突く。

 当たり所がよくて一撃で倒せた。


「よし!」

「後ろ、きてます!」


 振り向くと目の前にコボルトがいた。

 味方をカバーするために跳んできたのか!

 石の棒を弾く。その間隙を縫って別のコボルトが攻めてくる。


 防御で手一杯になる。

 足を止めたらダメそうだ。


「ならこれはどうだ?」

「ふぇっ」


 リンカの手を引いて後ろへ一直線に走る。

 ある地点で振り向き、迫ってきたコボルトを斬る。

 またすぐに後退。振り向いて斬る。撃破。後退。その繰り返し。


 宮本武蔵も言っていた。

 多数と戦うときは動き回ってタイマンを繰り返せ、と。


 残った2匹が同時に跳躍する。

 俺は振り向いて突くと見せかけ、股の下をくぐった。

 そのまま隙だらけの背中を攻撃。1匹になれば後は流れ作業だ。


「ふー。どうにかなった」

「新人はパーティーでも手こずる相手なのに。フェルディさん、すごいです!」

「それほどでもない」


 通り一遍の賛辞を受けながら2層への階段を下りた。


 2層に入ってすぐの小部屋で休憩する。

 時間的にお昼が近いかな?

 リンカが急にそわそわし始める。


「あのー、お腹減ってきましたよね?」

「走り回ったからな」

「そんなフェルディさんに、こちら!」


 じゃじゃーん、と口で言いながら出してきたのは。

 いや、なんだこれ? 具材がボロボロのサンドイッチ?


「愛妻べんとーです!」

「妻じゃないが」

「そこはほら、ノリですよノリ。さあさあ、パクッと食べちゃってください!」


 ずずいと近寄り、期待の目で見つめてくる。

 お腹が減っているのは事実だ。

 食事代も浮くし、食べてみるか。


「……おいしい」

「ふっふっふ。苦節1年、貧困生活に洗練された得意レシピですからねー」


 リンカは上機嫌で自分の分へ口をつけた。

 いまだにテンションはよくわからないけれど。


「よかった。私にはこれぐらいしかできないので」


 根は悪い人でもないのかも。

 もしゃもしゃと食べながら話を振ってみる。


「リンカさんってさ」

「リンカでいいですよ?」

「じゃあ俺もフェルでいいよ。リンカってさ、どういう事情で魔術師になったの?」

「うっ。そこ掘っちゃいますか」


 彼女はサンドイッチを飲み込んだ。


「私、故郷の村で顔なじみと一緒に冒険者になったんです。受付の人に役割は偏らないほうがいいよーって教わって、適性の検査を。そしたら魔法を使えるのが私だけだったので」


「とりあえず魔術師に?」


「最初は羨ましがられました。でも、実力はご覧の有様で。皆どんどん成長するのに私だけ足を引っ張って。結局、拠点を移そうって話が出たときに追放されちゃいました」


 あー、仲間内での役割分担かー。

 部活やチームゲームでもよくある話だ。

 とりあえずで始めたポジションに固定されるやつな。


 他を試そうにも人員が埋まっているし、環境が変わっても、なまじ経験があるものだから流れで続けてしまう。向いてるかどうかを考えるとか、固定観念を捨ててみる発想は、指摘されないとなかなか気づけないものだ。


「それから何回かパーティーに入れてもらって、そのたびに捨てられて。正直、もう引退したほうがいいのかな~っていうのは、ずっと考えてます」


 彼女は気恥ずかしそうにえへへと笑う。

 この日は2層を突破したところで引き返した。

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