第5話
世界が目覚める物音に起こされる。
財布を確認すると、きっちり6万ゴールドが消えていた。
うぬぬ。残金は23万4000ゴールド。
嘘です。昨日は奮発していいもの食べました。
残りは23万ゴールドちょうど。
まあいいさ。今日も薬草を引っこ抜いてボロ儲けすればいい話。
着替えてギルドへ顔を出す。薬草採取の依頼を持ってカウンターへ。
「申し訳ありません。本件は受理いたしかねます」
「……え?」
「フェルディさんにつきましては、当面の間、薬草採取の依頼受付を停止するとのことです」
「なぜですか!」
「今ある薬草が腐るまでは買い取りを控えろと、上からのお達しなので」
やりすぎてしまったらしい。
その後も微妙に粘ってみるが無駄だった。
他の新人の買い取りができなくなる、と言われては仕方ない。
「他にオススメの依頼ってあります?」
「そうですねえ。普通の新人には下水道や低級ダンジョンを勧めるのですが」
疑惑の視線を向けられている!?
「いやいやいや! 戦闘に関してはずぶの素人ですよ!?」
「その言葉を信じるなら、岩場のダンジョンでしょうかね」
「岩場のダンジョン?」
「砂浜沿いに進んだ崖の近くにある天然迷宮です」
簡単な説明を受ける。
文字通りの砂場と岩肌が続く、小洞窟みたいな雰囲気のダンジョンらしい。
浅い場所にはゴブリンや巨大ガニ、コボルトなどがうろついているとのこと。
ボスは大砂ヘビ。
うーん。どんなもんか推量できないな。
「難易度的にはどのぐらいなんです?」
「ここで通用しないなら、その、転職したほうが身のためかと」
「ガチの初心者向けなんだ。そういや神造迷宮っていうのは……」
「神像迷宮はBランク以上の方にしか解放されていません」
「そうですか」
サフィリア様の情報は正しかった。
俺に受けられる依頼は野外討伐か天然迷宮の二択。
いずれにせよ引率は同行するとのことだ。
ならば偵察気分で迷宮を覗いてみよう。
「わかりました。岩場のダンジョンに挑戦してみます」
そう伝えると、受付嬢は関連する討伐依頼を用意してくれた。
こうして現地へやってきたわけだが。
「今日もリンカさんが引率なんだ」
「先輩の私が色々と教えちゃいますよー! ふへへ」
引率の冒険者を探すと彼女は速攻で志願しにきた。
ずっぽり被ったフードで顔は見えないがわかる。
30万ゴールドって書いてあるだろ。
「久しぶりにお腹いっぱい食べましたあ」
おい。逆説的に普段はあまり稼げてないのか?
引率はこの人で本当に大丈夫なのか!?
いやいや、簡単に決めつけてはいかん。
きっと魔術師(Lv1)が火を噴いてくれるはず。
海風に吹かれながらテクテク歩き、現地に到着した。
わりと閑散とした雰囲気だ。
高い崖に囲まれた入り江と砂浜。その奥に洞窟が見える。
「岩場のダンジョン。懐かしいですねえ」
「攻略した経験が?」
「はい。前のパーティーにいたときに、何度か」
それなら安心だ。疑って悪かった。
盾を背負ったまま、たいまつを左手に持って洞窟へ入った。
情報によると、このダンジョンは7層構造。
道中に凝ったトラップなどはない。
宝箱に些細な罠がある程度だ。
すでに攻略され尽くしており、取り立てて注意すべき点もない。
とはいえ戦闘はいつだって命の危険がある。
気を引き締めていこう。そんなわけで――。
「超鑑定」
小声でつぶやく。
広めの範囲に超鑑定をかけると、魔物の情報が浮かび上がった。
――――――――――――――――――――
【ゴブリン】
【職業:魔物(ダンジョン)】
〈HP:35/35〉
〈スキル:なし〉
どこにでもいる低級の魔物。
ダンジョンに帰属する個体は群れで行動するが集落は築かない。
――――――――――――――――――――
説明不要のゴブリンさん。
保護色なのか、色が少しだけ灰色気味に変色している。
――――――――――――――――――――
【巨大ガニ】
【職業:魔物(ダンジョン)】
〈HP:26/26〉
〈スキル:斬撃(Lv1)〉
魔力による変質で巨大化したカニの魔物。
弱点は関節と殻の隙間。雷属性が有効。
――――――――――――――――――――
読んで字のごとくデカいカニ。
成人の膝ぐらいのサイズ感かな。
――――――――――――――――――――
【コボルト】
【職業:魔物(ダンジョン)】
〈HP:39/39〉
〈スキル:連携(Lv1)〉
二足歩行で武器を扱うイヌ科の魔物。
連携を得意とするが知能は低い。
――――――――――――――――――――
そしてコボルト。
犬は好きだが凶暴でペットには不向き。
情報を取得すると、視界の中にアイコンのようなものが残る。
再確認用と思しきこれが、目標の位置を割り出すのによく使える。
俺は深呼吸して剣を構え、近い位置にいる孤立したゴブリンへと奇襲をかけた。
「オラァ!」
「ギャギャッ!」
全力で振り抜いたが撃破には至らず。
逆に棍棒の一撃を足に喰らってしまった。
たかがゴブリン。されどこちらも初心者。
脳内での想像とは異なり、思った以上に体が動かない。
「ギエェー!」
殺意を向けられて身震いする。
棍棒を剣で弾き、返す刃を喉に突き刺す。
脱力したゴブリンが煙となって消えた。
小さな魔石と、ボロボロの耳が残っている。
「やりましたね!」
リンカの言葉で我に返った。
うおお、ファンタジー世界で初討伐!
ウサギかゴブリンを倒して二度目の人生に染まるミッションを達成だ!
ゴブリンの耳は討伐の証として袋へ入れて、小さな魔石を手に取る。
よし。これは記念に取っておこう。
俺は魔石をポケットにしまうと、次なる敵を求めて行軍を再開した。
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