第4話
目当ての薬草が生えているエリアに到達。
ここから俺の独壇場が始まる。
超鑑定。超鑑定っ。超鑑定ィイイイ!
「ここに生えてるな。お、そこにも。あっちにもある」
「ふわぁ……。もう10個集まってる!」
「引っこ抜いた分だけ金になる。ガンガン行こう」
超鑑定にはズームイン、ズームアウトの概念があるようだ。
なるべく広範囲にかけるとお目当てのブツをサーチしてくれる。
ただし得られる情報量は減るので、近づいたら鑑定し直す必要があった。
品質チェックは大事。
低品質だと理由をつけて買い叩かれる可能性もあるしな。
「フェルディさんは薬草のプロなんですか!?」
「故郷が山の村だったのでこういうの詳しくてね」
「山育ちってすごい」
嘘は言ってないぞ。
背負いカゴには目標数を遥かに上回る薬草の束が積まれていた。
見たところ1000個以上はあるな。もう少し積み増して――。
意気込んだ瞬間に強い立ち眩みを感じる。
ふらつく体を立て直そうとして、そのまま地面へずっこけた。
「フェ、フェルディさん?」
なんだこれ。体に力が入らない。
「む、いけない。これを飲んでください」
抱き抱えられて青い飲料を注ぎこまれる。
うぇえ、苦い。だけど徐々に体が動くようになってきた。
「魔力ポーションです。たぶん、魔力切れを起こしたかなって」
「魔力切れ」
しまった。超鑑定は魔法扱いだったのか。
それなりに使えていたから油断していた。
少なくとも、リンカにはカラクリがあるとバレただろうな。
「身体強化魔法ですね。山や海辺で暮らす人は無自覚に使ってる場合も多いんです」
注意しなきゃダメですよ?と人差し指を立てるリンカ。
えっへん、という擬音まで聞こえてきそうな声だ。
なんだ杞憂だったか。
「さすが先輩。物知りだ」
「ふふん、これでも冒険者歴1年ですから」
小声で「せ、せんぱい。先輩。ふへへぇ……」と聞こえてくる。
休憩してから薬草集めを再開した。
「張り切りすぎず、慎重に行きましょうね。初依頼でやらかすのは新人あるあるでして。以前のパーティーでも――」
君、急に先輩風を吹かせ始めるじゃん?
リンカのうんちくを聞き流しながら、今度は丁寧に超鑑定をかけていく。
丁寧さを意識したせいだろうか。
――――――――――――――――――――
【ダングル(死亡)】
【職業:役人】
〈状態:白骨化〉
地元の利権問題に巻き込まれて殺害された。
――――――――――――――――――――
地中になんか埋まってるー!?
見えちゃいけないもんまで見えてしまった。
いや、気のせいだな。うん。
心の中で念仏を唱えてスルーしておこう。
やはり超鑑定を雑に連打すると消耗が激しくなるようだ。
ゆっくりと時間をかければ、今度は倒れたりもしなかった。
ふたり分の背負いカゴがいっぱいになったところで引き返す。
アイテムボックスとかあれば便利だよなー。
冒険者ギルドに戻ったのは日が暮れた頃だった。
俺たちを認識した受付嬢は眉をひそめる。
「薬草採取にしてはずいぶん時間がかかりましたね?」
そう言ってカゴを覗き込み――。
「え。なにこれは」
「薬草ですが」
「いや多すぎでしょう。まさか適当に雑草を?」
厳しい目で「少し預かります」と告げて、バックヤードへ引っ込んだ。
しょうがない。向こうも仕事だし当然の反応だ。
待つことしばし。受付嬢が眉間を押さえながら戻ってくる。
「大変失礼いたしました。すべて薬草であると確認が取れました」
「よかった」
「まずは依頼達成報酬の3000ゴールドになります」
「どうも」
「そしてこちらが薬草の買い取り代金です」
カウンターに中身の詰まった大きな袋が6つ置かれた。
「薬草1本あたり300ゴールド。2000個ですので60万ゴールド」
「ろ、ろくじゅうまん?」
リンカが目を丸くしている。
俺は皮袋の半分を彼女に押し付けた。
「じゃあこちらが分け前ね」
「え!? いいんですか!? 私ただ一緒に歩いてただけなのに」
「いいよいいよ、魔力切れから助けてもらったし。命の値段だと思えば安い」
「なんかすみません。へへへ……さんじゅうまん……」
上機嫌の彼女に別れを告げると急いでギルドを立ち去る。
60万はこの世界の感覚でもまあまあの稼ぎだ。
聞き耳を立てていたやつもいるだろう。
ましてや俺は新人ペーペー。
誰でもチンピラAのようにあしらえるとも限らないし、リンカには悪いがデコイになってもらおう。
俺は安宿を引き払うと、なるべく治安の良さげな通りで宿を取りなおした。
価格は倍の一泊6000ゴールド。
安全を買っていると思えば許容できるラインだ。
ベッドに寝転がりながら考える。
当面の目標はふたつだな。
1、金を溜める。
2、金の安全な置き場所を確保する。
これらを達成しないことには中長期的な計画が立てられない。
今回手にした金はどうしようか。
装備の拡充? 一時的な仲間の雇用?
何らかの商品に投資して行商ってのもありに思える。
いや、その場合はまた初期投資が必要になるか。
つらつら考えているうちに眠っていたらしい。
俺は見覚えのある真っ暗な空間にいた。
「阿呆!」
「いてぇっ」
またもや頭を叩かれる。
サフィリア様はふくれっ面で仁王立ちしていた。
「収入の1割をワシに捧げよと言ったであろう」
「あ、そういえば」
「今回は60万の1割。6万ゴールドを持っていくぞ」
「えー? 3万になりませんか?」
「あの娘に半分くれてやったのはお主の勝手だ。ワシは知らん」
守銭奴めぇ。
さりげに下界の様子をチェックしてるんだ。
「雑務の処理は部下がやっている。なかなかヒマな立場でな」
「ブラック社長は誰しもそう言うんすよ」
「問題ない。皆も神のために働ける喜びに感謝してるはずだ!」
自信満々だな~。
部下の皆さん、ご愁傷様です。
「そうだ。神造迷宮を攻略しろって話なんですけど」
「む? どうした?」
「順番的にどうしても金策が必要そうなんですよ。寄り道しても大丈夫ですかね? ノルマとか、納期とか」
なんだそんなことか、と片目をつむるサフィリア様。
「焦る必要があるなら尻を叩きにくるから問題ない。そもそも実績がなければ挑戦できんはずだぞ」
え、そうなんだ。
「お、そろそろ時間だな? 詳しいことは下界で調べておくがいい。ではまたな!」
サフィリア様はスススーッと消えていく。
と、思ったら。
「我は甘いお菓子が食べたいぞ。探して奉納するように」
ヒュン、と戻り、用件を言い残してから今度こそ消えた。
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