第3話


「以上で説明は終了です。何か質問はありますか?」

「いえ、ありません」

「そうですか。では、こちらのランク証をどうぞ」


 最低ランクのGランクを示す木札のようなものを受け取る。

 この世界の冒険者制度はオーソドックスなランク制。

 G~Sまでの階級があり、それ以上の実力者は別個の名前で呼ばれるらしい。

 よくあるファンタジー冒険者って感じ。


 ちょっとした違いもあった。


 ダンジョンには天然迷宮と神造迷宮の2種類が存在する。

 敵を倒したとき、前者はアイテムや素材などが現物のままドロップされる。

 後者は装備品の代わりに『カード』が手に入るらしい。


 このカードを規定の枚数分集めると、特殊な手順を経て装備品を召喚できるそうな。


「タチの悪いガチャゲーみたいな仕様だ……」


 なんでも神造迷宮は名前の通り女神の創造した空間だという。

 あらましは以下の通り。


 大昔、影の魔神がこの世界を覆い尽くそうとした。

 そこに人の祈りに答えたある女神が登場。

 闇の力や瘴気をいくつかの大きな箱に閉じ込めて、地中深くに封印した。


 その箱の上に産み出された建物や空間を、世間はまとめて神造迷宮と呼んでいる。


 女神は迷宮の産物に恩寵を宿らせたうえで、『徐々に染み出てくる闇の残滓、すなわち魔物を討伐せよ』との命を与えた。


 つまり神造迷宮のカードは人類へのご褒美ってわけ。

 何度も挑みたくなるように考えた結果がソシャゲのシステムかい。

 闇鍋ルーレット、すり抜け、被り、限界突破の要素もありそうで怖い。


「なんかオススメの依頼ってあります?」

「そうですねえ。フェルディさんは未経験のGランクですから、薬草採取から始めるのがいいと思いますよ」

「薬草採取ですか」

「依頼を受ける際にはギルドにご相談ください。当ギルドの方針で、新人は慣れるまで先輩冒険者と同行することになっています」


 それはなんとも手厚い介護。

 新人の死亡率を減らすため? それとも不正防止の取り組み?

 何にせよひとりで野外をうろつくよりはマシか。


「じゃあ薬草採取の依頼を受けます」

「かしこまりました。この絵を参考にして、10本の薬草を集めてきてください。もし依頼数よりも多く集められたらギルドのほうで買い取ります」


 受付嬢は営業スマイルのまま周囲を見渡す。

 その目が隅のテーブルで縮こまっている冒険者に向いた。


「リンカさーん」

「ひゃい!」

「ちょっときてください」


 名前を呼ばれた小柄な冒険者はびくぅっと跳ね、おろおろと左右を見ながらやってきた。


「あの~、何か? またお説教だったり?」

「新人研修の引率をお願いできますか?」

「なぬ! 私でいいんでしょうか!」

「ええ。もしご自分の依頼を受けるのでしたら別の方に――」

「い、いえ。どうせ薬草採取の予定だったので。やります。すみません」


 なんだか卑屈な人だな。

 名前と声からして女だとは思うが。

 顔はうかがえない。

 ローブのフードを深々と被っているうえに仮面までしている。


「では、後のことはよろしくお願いします。色々と教えてあげてくださいね」


 それだけ言うと、受付嬢は自分の仕事に戻ってしまった。

 困った雰囲気のリンカさんに声をかける。


「とりあえず外に出よっか」

「あ、はい」


 建物の外に出ると、俺たちは歩きながら話した。


「えと、私はリンカ。魔術師やってますです」

「改めまして、フェルディだ。先ほどギルドに加わった」

「さっきの見てました!」

「ああいうの、よくあることなのか?」

「通過儀礼みたいなもんですかねー。私もやられたことあります……。すごいですねぇ、新人なのにリガロさんを振り払ってしまうなんて。私たちなんて初依頼の報酬を巻き上げられて……」


 下着泥棒はずいぶんとヤンチャしていたようだ。

 この人はこの人で、なんともタゲられそうな雰囲気だ。


「すぐにでも依頼へ出たいんだけど、何か注意点とかあるかな?」

「あ、装備を用意したほうが」

「おっと。そうだった」


 言われてみれば丸腰だ。防具もない。

 かといって新調するような資金もない。

 どうしたものか――悩もうとしたとき、ぶらぶらしているチンピラAの姿が目に入った。


 俺は手を振りながら声をかける。


「おーい、おーい」

「げっ。なんだよ。まだ何かあるのか?」


 嫌そうな態度を気にせずにガッチリと肩を組む。


「装備買わなきゃなんねーんだけど、今ちょっと持ち合わせがなくてさー」

「ああ? んなもん自分でどうにかしろや」

「ミリア」

「ぐっ!」

「俺たち、トモダチだよな?」


 至誠、天に通ず。

 チンピラAは気前よく財布のヒモを開いてくれた。


 一時間後。

 ピカピカの装備を新調した俺は野外を練り歩く。


 剣、革鎧、盾にすね当てという駆け出し量産型のスタイルだ。

 頑丈な鎧も試してみたが想像以上に重かった。

 戦闘に慣れるまでは無理せず徐々にグレードアップしていきたい。


 森に入れば魔物も出てくる。気を引き締めていこう。

 と、その前に。


「鑑定」


――――――――――――――――――――

【リンカ】

【職業:冒険者(Gランク)】

〈クラス:魔術師(Lv1)〉

〈スキル:初級魔法〉

〈年齢:17歳〉

――――――――――――――――――――


 ふむ。ノーマル鑑定だと表面的なプロフィールだけか。

 では続けて超鑑定っと。


――――――――――――――――――――

〈称号:なし〉

〈奇跡:戦士の天才〉

〈状態:悩み〉

〈配偶者:なし〉

〈経歴:村人――放浪者――冒険者〉

 冒険者ランクの停滞に悩んでいる。

――――――――――――――――――――


 せ、戦士の天才ぃ?


――――――――――――――――――――

〈戦士の天才〉

 近接系統のクラス適性がSランクに上昇。

 近接系統のスキル適正がSランクに上昇。

 近接スキルの習得にかかる時間を短縮する。

――――――――――――――――――――


 すごいのきちゃった。

 ひょっとして俺は将来の英雄と行動しているのかも。


 だけど本人は魔術師のつもりでいる。

 才能の有無と自覚できるかどうかは別の話なのか?


「フェルディさん? ど、どうかしました? はっ、もしかして私に見とれて……?」


 パーフェクト陰キャ装備で何いってんだこいつ。

 うん。緊張するのはやめよう。

 どんなにすごい才能があったとしても、今の彼女はGランクの魔術師だ。


 気を取り直して森へと足を踏み入れる。

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