恋愛情勢は複雑怪奇
「アキ、知ってたか?
「ははっ何それ。妄想乙~。リア姉みたいなカッコいい人が、お兄ちゃんのこと好きになるわけないじゃん」
だよなぁ……と、俺は頷いた。
夕食後、仕事に出かける母さんを見送って、俺はリビングでのんびりしていた。
ソファの隣で妹のアキがゴロゴロしている。
今日も今日として「星羽ミハル」と「イモータル・リュウ」はコラボ配信。
本当なら母さんと一緒に出掛けてもいいのだけど、アキに勘づかれないようにダンジョンに向かう時間を少しズラすようにしてある。
ダンジョンに行けば、イチャイチャする恋人配信だ。
星羽ミハルと――実の母さんと。
「罪園、ずっとアキと一緒に配信を見てたんだってな。今日聞いたよ」
「そだよ。ミハルちゃんとコラボする前の、お兄ちゃんのクソつまんない配信を全部いちいちチャットで実況してくれてるんだから。リア姉ったら聖人だよねっ」
「本当にな……大学に会社にダンジョン攻略にと、あんなに忙しいのにさ」
女子大生と会社社長と冒険者。
罪園 リアムの三重生活は「いつ寝ているのかわからない」と、俺を案内してくれた社員さんも心配していた。
特に冒険者活動――ダンジョンは夜に出現するのだから、俺の配信と時間が丸被りとなる。
罪園の話では毎回リアルタイムで配信を見ているということだったが……。
スマホ画面をじっと見ていたアキが呟く。
「……リア姉、お兄ちゃんのこと好きかも」
「ん、どうしたんだ?」
「ほら、これ見て。ダンジョン公社の公式サイトにアップロードされてる、冒険者としてのリア姉の活動記録……ここ数か月くらい、ちょくちょく体調不良で突発的な休みがあるじゃん?」
「どれどれ……あれ、この日付って」
「全部、お兄ちゃんが配信してた夜だよ。お兄ちゃんの配信をリアタイするためだけに、冒険者の仕事を休んでたんだ!」
「罪園はS級冒険者だから、ダンジョン攻略では国の支援を受けてるんだよな。俺の配信のために休むって……まずくないか?」
「ってか、リア姉がお兄ちゃんのこと好きってマジなの? なんで!?」
「俺に聞くなよ! そんなもん、俺にだってわかんないんだから」
「顔? やっぱ顔なのかなぁ? お兄ちゃんが釣り合ってるのってそこぐらいだもんね……見た目だけはリア姉と並んでも絵になるか……」
「泣いていいか?」
そもそもの話。
どうして、このタイミングで告白してきたんだろう?
俺と罪園はずっと仲の良い友達だった。
告白するタイミングならいくらでもあったはず……。
「(思い当たるフシと言えば、だ)」
ここ最近の罪園は社長になって忙しくなっていた。
自分のことを「弊社」なんて呼んだりして――
その件と関係があるんだろうか?
俺が考え込んでいると、アキが騒ぎ始めた。
「でもでもっ! じゃあ、ミハルちゃんはどーすんの!? せっかく、あんなに良い感じになってるのに」
「ミハルさんとは……まだ、そんなんじゃないって」
「そうかなぁ? ミハルちゃんの方は満更じゃないっぽいし。お兄ちゃんだってミハルちゃんのこと好きなんでしょ?」
ミハルの名前を出されると、胸がズキリと痛む。
星羽ミハルの正体は、母さん。
このことは……せめて、アキには話しておいた方がいいんじゃないだろうか?
「アキ、実は……」
「あーっ! お兄ちゃん、そろそろ出かけないと! ミハルちゃんとのコラボに間に合わないよ!」
――もう、そんな時間だったか。
「悪い、ありがとな。……いってくるよ」
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