適合率99.99%!!!

「けっ……こん? 俺と、罪園つみぞのが?」


「肯定します。どうでしょう、以東くん」


罪園は無表情のまま答える。


普通なら、何かの冗談だと思うだろう。

実際、罪園はこう見えてギャグが好きなタイプだし、いつもなら真顔でジョークを言うこともよくある――だけど、俺にはわかる。


「マジで言ってるんだな……?」


「マジと読みます、本気と書いて」


さらりと言う罪園は「本気」の目をしていた。


深い湖のようなサファイアの瞳を至近距離から見つめていると、つい吸い込まれてしまいそうになってしまう。


俺の心臓は鼓動を早く鳴らし始める。

手を伸ばして俺の胸に触れる罪園は、その鼓動を感じているはずだった。


「以東くんは、弊社のことを好きではないのですか?」


「それは……」


わからない。

これまで罪園のことをそんな目で見たことが無かった。


――好きか、嫌いかで言えば。


「嫌い……じゃない、よ。罪園とは気が合うし、良い奴だってことも知ってる。だけど、正直な話をすると……俺が罪園みたいなハイスペ女子の恋愛対象に入っている、というのが信じられないっつーか。俺たちはあくまで友達でさ。罪園だって、全然そんな素振り見せてなかっただろ?」


「そうでしょうか。弊社にはそういった男女の機微はわかりません、以東くん以外の男性を好きになった経験が無いので」


わかりました――と、罪園は頷いた。


「既に弊社は「その段階」は超えているものと考えていましたが、以東くんが困惑していることは理解しました。では、提案を。結婚する前に交際期間を設けましょう、弊社たちが恋人となって互いを深く知り合うために」


「まずは恋人からか……ん、待てよ」


恋人、と言われて思い出すことがあった。


「いや、今はダメだ!」


がある。


今の俺はイモータル・リュウとして、母さん――星羽ミハルと友達以上恋人未満の甘酸っぱいムーブで人気になってる最中なんだ。

SNSでも俺たちが絡んでるシーンのファンアートを見かけたりもしたし。


「(そんな俺がリアルで恋人がいることが知られたら……!)」


インターネットは大炎上すること間違いなし。

ミハルにも――母さんにも、迷惑がかかってしまう!


「悪い、罪園。

 罪園の気持ちは嬉しいけど、今だけはダメなんだ」


「……星羽ミハルですか」


罪園 リアムの放つ声色に怒気がこもる。


「あれは恋人でも何でもないはずです」


「そ、それはそうなんだけどさ。

 ミハルさんは俺にとっては……」


「お義母かあさま、ですね」


罪園は俺の言葉を先取りして、真実を貫いた。


「以東 春子、37歳。前後1世代の親族関係にある1親等の血族。以東くんにとっては、実の母親。弊社もお義母かあさまのことはよく覚えています。カルピスを牛乳で割ってくれたのは、あの方が初めてでした……」


「(母さんのことが、バレてる!?)」


なんとか言い訳をしなくては……!


「な、なに言ってんだよ。ミハルさんは女子高生だぜ? 俺の母さんなわけ無いじゃないか……!」


「以東くん、残念です。弊社に嘘をつくのですね」


罪園はふたたびリモコンを押してスクリーンを下ろす。


スクリーンに投影されたのは二つの画像だった。


一つは配信中の星羽ミハルのスクリーンショット。


もう一つは、小学生の頃の運動会の写真――

ガキの頃の俺が徒競走しているのを、父兄の席から応援する母さん。



「以東くんにまつわる写真は、運動会も、修学旅行も、全て購入してあります。そのことが功を奏しました。以東 春子と星羽ミハルが映っている合計100枚以上の静止画から、ザイオンテック本社のAIによって特徴量を算出して作成した頭部頭蓋骨のシミュレーションCG……その適合率は99.99%」



99.99%――フォーナイン。


「これはありえない結果です、赤の他人同士では。

 以東くん、もう一度聞きます」


暗い社長室の中で、罪園は問いかける。


「星羽ミハルとは……誰ですか?」


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