VSオークプリースト(中編)

俺の【影下分身シャドウメーカー】の最もシンプルな使用法。

それは仲間の影人形を作ることでパーティの戦力を倍増するというものだ。


「グリーンドラゴン戦では、ミハルさんの攻撃がグリーンドラゴンの異常な耐久力に通じなかったために使用できなかったが……本来はこれが最適な使い方さ」


見た目はミハルにそっくりだが真っ黒の体色を持つミハル・オルタナティブ。

コピーされた影人形はミハルと同じ剣を手にしている。


俺の【影下分身シャドウメーカー】でコピーできるのは基本的なステータスと物理的な特性のみ──対象が持つスキルなどはコピーできない。


だが、何も問題は無いとも。



「えーいっ☆」とミハルが大剣を振るえば、


「行け、ミハル・オルタナティブッ!」

「…………」


ミハル・オルタナティブも同じように剣を振るう。



影人形を操作するのが俺である分、戦闘技術の差で厳密には本物のミハルの方が強いのだが──それでも、元から暴力の化身であるミハルが二倍になるだけで、戦力は二倍、パワーも二倍。

これだけで、おおよそ全ての障害は突破可能となる!


オークの群れはバターのように切り裂かれていく。

俺たちは冒険者たちの元に駆けつけることができた。


「(どうやら、全滅寸前だったようだな……)」


二人の冒険者がオークの群れに応戦していた。


斧を手にした中年男が、修道女姿の女性を守っている。

おそらくは中年男の方は戦士職。

後ろにいる女性は回復職に見える。


周囲には装備品をまとめたバッグが2つ。

あれは脱衣脱出ネイキッドの産物だろう。



HPがゼロとなった冒険者を守るシステム──

強制脱出魔法エヴァキュエーションにはデメリットが存在する。


戦闘不能になる直前までの経験値やレベルが失われるのに加えて、装備・所持しているアイテムも失われてしまうのだ──そこで、戦闘不能になることを悟った時点で装備品などを廃棄してその場に捨てるという対策がある。


この対策のことを脱衣脱出ネイキッドと呼ぶわけだ。


脱衣といっても、初期装備に戻すだけだから本当に脱ぐわけじゃないぞ。


ちなみに脱衣脱出ネイキッドで廃棄されたアイテムは所有権を放棄した扱いになるため、第三者が拾得した場合には拾った冒険者に所有権が移ることになる。


このことが原因でトラブルに発展することも多い……

廃棄されたアイテムを回収して転売することで利益を得ることを生業とする連中──バルチャー(ゴミあさり)が良い例だ。



「(この人たちは仲間のアイテムを守ろうとしてたのか)」


だが、回収して逃げることが叶わなかった──

そんなとこだろうな。


俺たちはオークと戦う冒険者たちの元に合流した。


「助けを求めてたのはアンタたちか?」


目の前のオークに剣を向けながら、男は答えた。


「そうだ。俺たちは『パンドラの希望』っ!」


「良い名前だな」

と、返しながら俺もオークに応戦する。


ギリシャ神話に登場する人類最初の女性、パンドラ。

パンドラは決して開けてはならない箱を開けたばかりに、世界に災厄の種をまき散らしたが……箱の底には一つだけ「希望」が残されていたという。


『パンドラの希望』、か。


こんな状況では皮肉なパーティ名かもしれないが。


「いいや、俺たちが「希望」になればいい話だな!」



:パンドラの希望!?

:いやいや

:オークなんかに負けるわけなくね

:数が多すぎんよ

:リーダーのパンドラはA級

:見つけた

:パーティ全員がB級以上のはず

:中階層にオーク大量発生、神奈川でも先日あったって

:マジか

:なんか最近おかしいよな

:調べてみるね



コメント欄の報告を聞きながら、俺は思案を巡らせる。

もしかして……これもグリーンドラゴンの時と同じ、何かの異常なのか?


背後から治癒魔法を唱える声が聞こえた。

俺とミハルのHPが全快する。


修道服姿の女性──雰囲気からしてリーダーだろう。


「私の名はパンドラです。

 助けに来てくれてありがとう、星羽ミハル」


「冒険者は助け合いだもんっ。

 ミハルたちに任せて☆」


「それと……」


「イモータル・リュウだ。

 今日からミハルさんとパーティを組んでる」


俺はパンドラに訊ねた。


「何が起きてる? このオークの群れは何だ」


「一匹だけ、厄介なモンスターがいます。奴が使用するスキルはオークを生成するスキルと、生成されたオークのステータスを強化するスキルです」


「オークを生成するスキルだと……!?」


それで辻褄が合った。


オークが大量に発生しているのも、本来はD級でしかないオークがやたらと強かったのも、どちらも原因は同じ。


パンドラの目線を追うと、

オークの群れの向こうに紫色のローブが見えた。


ローブをまとっているのはオークだが、他の雑兵とは明らかに実力が違う。

魔術師が持つ杖を装備して、朗々とした声で何かの呪文を唱えている。


そのたびに奴の足下からオークが生まれて、こちらに進撃してきた!



:オークプリースト

:ランクはB級

:HPが高くしぶとい 知能も高いみたい

:お?

:ここまではモンスター図鑑の情報

:神奈川の厚木でも異常個体が発見されている

:厚木の報告ではA級数人がかりでも倒しきれなかった

:私調べ ソースはオフレコね

:U案件? これは意味わかんないけど

:なんだなんだ

:とにかくオークの群れの原因はそいつ!

:エンゼルを代表して沈黙します

:スキル【オーク生成】【サーヴァント強化】

;両スキルともクールタイム0で連打してくる

:A級の全滅報告あり 3件

:グリーンドラゴンの時と同じだよ

:モンスター図鑑は当てにならない

:異常に強い ミハルちゃんも気をつけて!



コメント欄で誰かが情報を調べてくれている。


「オークプリースト……?」とミハルが呟く。


同じ内容がミハルのチャンネルにも書き込まれているらしい。


俺はミハルと目線を交わした。

こうなったら「アレ」を解禁した方がいい。



「こんなに早く使うことになるとはな。

 ミハル、いけるか!?」


「大当然!

 お兄さんも、油断しないでネ!」



この状況はオークプリーストを倒さなきゃ解決しない。

それなら──今すぐ、ぶっ倒してやるぜ!

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