VSオークプリースト(前編)

俺とミハルは悲鳴の元へ駆けつけた。


金属質の樹木が入り組んだ森林となっているようなエリアにモンスターの大群がいる。

群れをなしているのはオークのようだった。


オークとは大柄で緑肌をした人型モンスターである。

戦闘力はそこまで高くない。

知性も低いため、ランクはD級。


本来ならC級程度の実力がある冒険者なら対処は容易のはず……


「だが、数が多すぎる!」


地を埋め尽くすほどのオークがひしめきあっている。


武器を振るう音、攻撃魔法を唱える声がオークの群れの向こう側から聞こえている……どうやら他の冒険者が応戦しているらしい。


「悲鳴の主はあの人たちみたいだな」


助太刀しよう──と声をかける前に、ミハルは大剣を携えて飛び込んでいた。

暗殺用のダガーを手にしながら俺もミハルに続く。


グレートソードを持ちながら回転するミハルは、さながら巨大な丸ノコギリのように全てを切断していった。金属の樹木に隠れるオークたちは、その樹木ごと胴体を真っ二つに切断されて倒されていく!


「ガアアアアッ!」


俺の元にもアックスを手にしたオークが襲いかかる。

大振りの一撃を回避して、俺はスキルを発動した。


「【影下分身シャドウメーカー】ッ!」


影を実体化して影人形として操る俺のユニークスキル──ただし、スキルを使っても影は影のままだ。このスキルの対象とした影は、影人形の形態と影の形態を自由に切り替えることができる。



そこで生み出したコンボがだ。



俺はオークの懐に入り込む。

そのままダガーを手にした腕を伸ばした。


ダガーの刃がオークに触れる瞬間──黒一色の影人形の腕だけが実体化して、俺の腕から伸びていく。

本体である俺の腕がオークに触れる直前に、影人形の腕は手に持った影のダガーをオークに突き刺した!


「グオ……!?」


まずは影人形のダメージ。

続いて、俺本体の攻撃が命中する──


ここで職業(クラス)スキルを発動!


「【奇襲攻撃】ッ!」


「グアアアアア!!!」


断末魔をあげながらオークは大ダメージを受けた。


盗賊シーフ独自のスキルである【奇襲攻撃】は、自分以外の冒険者とモンスターが戦闘しているときに俺がモンスターへ与えるダメージを倍加させることができる。

本来なら味方とモンスターが戦闘しているところへ【奇襲攻撃】を使用しながら攻撃を加えることで、盗賊シーフの低い攻撃力を補う運用を想定されているスキルだ。


だが俺のユニークスキル【影下分身シャドウメーカー】とコンボすることで【奇襲攻撃】の使い勝手は大きく向上する。


ユニークスキルで生成した影人形は俺とは別個の個体として扱われるため、俺が攻撃する直前に影人形で攻撃を加えることで強制的に「俺以外の冒険者とモンスターが戦闘している」状況を作り出して【奇襲攻撃】の発動条件を満たすことができるのだ。


「俺の攻撃力を1とすると、影人形の与えるダメージ1と、【奇襲攻撃】で本体が与えるダメージが2──合計すると、俺は常に3倍の攻撃力を発揮できるわけさ」


そう、名付けてシャドートライ……

と、俺がネーミングを披露しようとしたところでオークが起き上がる。



「グオオオオオオオオッ!」


「何、死んでないだと!?」



瀕死になりながらも襲いかかるオーク。

だが、背後から受けた剣の一撃でオークは両断された。


ミハルの加勢である。


「お兄さん、大丈夫!?」


「助かった。技名の披露は今度にしておくよ」


「うん、ミハルもそれに大同意ッ!」


俺とミハルは背中合わせになり、オークの大群と対峙した。


背中越しにミハルが言う。


「気づいた? ただのオークじゃないみたい」


「ああ……俺の新技はオークぐらいなら一撃で倒せるはずだった。それがHPが残ってたってことは……少なく見積もっても一体一体の性能はD級に収まらないってことだな」


何らかの強化を受けているのか、あるいはオークに似た別個体なのか。

いずれにせよ、悲鳴をあげた冒険者たちを助けに向かうには、こちらも最大戦力を解禁するしかないようだ。


俺たちは頷き合う。



「ミハルさん、例のプランでいこう。MPよろしく!」


「オッケー☆

 【MP交換スワップ】、大発動ッ!」



互いに背を向けて、武器を手にしたまま、俺は空いた手でミハルの手を握った。

握った手の体温越しに、魔力の源たるMPが流れ込んでくる。


俺の【影下分身シャドウメーカー】は、俺自身以外を対象にスキルを発動した場合には消費MPが倍増してしまう──だが、その欠点は高レベル冒険者かつ、自身ではMPの使い道が少ないミハルからMPを供給してもらうことで補うことができる!


役割分担。

俺とミハルはパーティなんだ。


そして俺は影に触れる。


「【影下分身シャドウメーカー】……!」


きゃるん、と影が立ち上がった。


身長150cmにも満たない愛らしいシルエット。

ただし、そこに秘めた力は外見からは想像もつかない。


日本に七人しかいないS級冒険者にすら匹敵する最強のステータス。


俺の生み出した影人形は、スキルまではコピーできないが……

この影人形に限ってはスキルをコピーする必要も無い。


「それ」が剣を振るうだけで、

一撃一撃が必殺技となる。


「それ」は立っているだけで、

あらゆる攻撃を防ぐ盾となる。


「それ」とは即ち──



「影人形版、星羽ミハル──! いいや、ミハル・オルタナティブとでも呼ぶべきかな」



ピンク色のツインテールの少女と、

影に染まるツインテールの少女が並び立った。

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