ダンジョン出現!
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃーい。お兄ちゃん、がんば!」
アキに激励されて、家を出た俺は自転車を走らせた。
すでに日は落ちている。
道路を照らすのは走行する車のヘッドライトと、点々と置かれた街灯のみ。
「(うう、緊張するなぁ……)」
JR青梅線の線路沿いを立川方面に向かうと、西立川駅の手前にサイクリングコース用のゲートが見えてくる。今晩は予報通りにダンジョンが出現したため、ゲートの前には青い作業着を着たダンジョン公社の職員さんがいた。
「冒険者の方ですね?」
俺は『メイズポータル』のアプリを起動してスマホのコードを提出する。
職員さんはコードをスキャンして、手元にある名簿にチェックを入れた。
「申請を確認できました。
今晩もよろしくお願いします」
「はい!」
職員さんに促され、俺はゲートの先へ自転車を進めた。
昭和記念公園は夕方の開園時間を過ぎるとゲートが閉鎖されるが、今晩のようにダンジョンが出現した夜の場合には、冒険者のみゲートを通過することが許可される。
園内ゲートも開放されており、俺は有料エリアのサイクリングコースに突入した。
入園料を支払わなくていいのは役得といったところか。
もっとも、うちの一家の場合。
母さんもアキも俺も、みんな年パスがあるんだけど。
ダンジョン出現地点は南側のゲートから程近い場所だ。
俺は目的地に向けてペダルを踏み込む。
昭和記念公園のサイクリングロードは静かな夜の空気に包まれていた。
本来なら紅葉の季節の夜間にしか一般開放されていないライトアップの照明が点々と続く舗装路は、まるで月明かりに照らされたようにアスファルトを輝かせている。
昼間ならジョギングする人や散歩する家族連れで賑わう道も、夜の闇の中では静寂だけが支配していた。
「おっ……」
木々の隙間から「水鳥の池」がちらりと見えた。
反射する水面が月明かりを跳ね返して不規則に揺れる。
水面に映る夜空は生き物のように光り、ざわめき──時折、風が吹くたびに小さな波を立てていた。
子供の頃から見慣れた風景。
そこに──異物が突き立っていた。
太い、太い幹のような塔。
これが人間の手によるものならば、まず疑うべきことは建築基準法違反だろう。
奇妙にねじ曲がる青白いシルエット──
岩と金属と未知の物質が絡み合い、歪んだ螺旋を描くその姿は、自然物と人工物が無理矢理に溶け合ったかのような不気味さを放っている。
湖のように大きな池の中から出現したダンジョンは夜空を切り裂く剣の如く、暗闇に向けてその先端を伸ばしていた。
「水鳥の池」の周辺には冒険者たちが集っている。
休憩所とレストランを兼ねた建物の近くに自転車を止めると、周囲の冒険者たちがチラリとこちらを一瞥し……ひそひそと会話が聞こえてきた。
「おい、あれ……!」
「この前の配信の奴か?」
「ミハぴに膝枕されてた……」
「許されざるいのち」
「でも、ちょっとカッコよくない?」
「クソみてえなDネームしやがってよ」
「
「おいおい、ここにアイツがいるってことは…」
「ミハぴ、パーティ組むって予告してたよな」
「ウソだろ……!」
と、そこに「お待たせー♪」と声をかけられる。
現れたのは……
「ミハルさん!」
その人が現れた途端に、場の注目が一気に集中した。
一目で引き込まれる存在感。
ピンク色のツインテールはふわりと軽やかに広がり、光を浴びるたびに微妙なグラデーションを浮かび上がらせていた。
澄み切った湖のようなブルーの瞳の中には☆のマーク。
それはただの模様ではなく、本物の星が宿っているようにきらめき、彼女が他にはない特別な存在──スターだということを示しているようだ。
彼女の魅力はキュートな顔立ちや髪色だけではない。
彼女の体型が、彼女をさらに印象的な存在にしていた。
身長は150cmにも満たないほど小柄だが、その華奢な身体つきに不釣り合いなほどに豊かな胸が服のラインを大きく押し上げている……!
彼女がまとう白銀の鎧は女子高生の制服を模したようなミニスカート風のデザインであり、下半身はタイツに包まれた白く伸びる足を、上半身の方は胸元からウエストにかけてのラインを強調していた。
先日の戦闘のときは、
それどころじゃなく気づかなかったが……
「(仮にも二児の母に許される服装なのか、これは!?)」
俺の内心の動揺に気づかないかのように、
「星羽ミハル」の愛らしい笑顔が向けられる。
「ミハミハ~!
お兄さん、今日はコラボよろしくねっ」
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