パーティ結成! ネクスト初コラボ

「(そうだ、母さんからもダンジョン公社に行ったときに手続きしといてくれって言われてたな)」


新川さんからパーティ申請書を受け取る。

これでやっと念願のパーティが組めるんだ。


「う、嬉しいぜ……!」


「良かったですね。おめでとうございます!」

と、新川さんが拍手した。


「イモータル・リュウさん、パーティの件でよく相談に来てましたよね」


「そうなんですよ! 売り込みをかけても、レベルとステータスを見せたらすぐに逃げられちゃって……ユニークスキル持ちは珍しいといっても、俺のステータスじゃ満足に使えなかったから」


俺がパーティを組みたかったのには理由がある。


ダンジョン内やSNSで短期的に結ぶ仮パーティとは異なり、正式なパーティを結成すると冒険者には様々な特典が与えられるのだ。


パーティ内での獲得経験値の共有もそうだし、ステータス補正、アプリを介した一定距離内での念話、討伐報酬やアーティファクト買取り価格の上乗せ等。


新川さんに色々と教えてもらいながら、俺は書類に記入した。


「ええと、パーティ名か……」


母さんは自由に決めていいって言ってたな。


「リュウと、ミハル。やっぱりパーティとしてはミハルさんの方が主役だし、底辺の俺が出しゃばりすぎないようにしないとな……よし、決めた!」


さらさらさら――と思いついたネーミングを記入する。



「パーティ名は『ハッピー・エクリプス』だッ!

 どう思います、新川さん?」



俺が訪ねると、新川さんは「良いと思いますよ♪」と答えた。


「ところで、どんな意味なんですか?」


――よくぞ聞いてくれましたっ!



「まず、ミハルさんはファンから「ミハぴ」って呼ばれてるみたいなんです。これは「ミハル」と「ハッピー」を組み合わせた造語なんですが、ここから「ハッピー」を抜きだしてパーティ名に冠することで、ミハルさんが主役のパーティだということをリスナーに印象付けてるわけですよ。対して脇役であるこの俺、「イモータル・リュウ」の要素は入れてないんですが、ここには仕掛けが一つ。パーティ名の後半にある「エクリプス」とは日蝕や月蝕を意味する言葉で、これは俺のスキルである【影下分身シャドウメーカー】の要素を入れてるわけなんですよ。つまり、ミハルさんという灼熱の如き大いなる存在に落ちる影の男、太陽に背きし隠者、それが俺であるというわけなんです!!!」



俺が語り終えると「なるほど。イモータル・リュウさんはヒヨケムシなのね――」と新川さんは言った。


「ヒ、ヒヨケムシですか?」


「ええ――」


と、今度は新川さんのターンに移った。



「ヒヨケムシは一部の昼行性種の性質から英語では"Sun spider"と呼ばれるけど、それに反して学名である"Solifugae"はラテン語で"太陽から逃げる者"を意味するわ。和名のヒヨケムシは「日除け虫」、つまりは直訳ね。太陽の光を好むわけではなく、むしろ影を追いかけて、暗がりを求めて砂漠を走り回るのよ。素早く敏捷力が高いことから、虫世界における影の忍者と言ったところかしら。ちなみに"Sun spider"――スパイダーとは名付けられているけど、鋏角亜門クモガタ綱に属してはいるもののヒヨケムシはクモではないわ。もちろんクモ同様に「三対の脚」等の条件を満たさないから昆虫でもないのだけど、あるカードゲームにヒヨケムシのクリーチャーが収録されたときは種族が「昆虫」になってたわ……カードゲームではよくあること、よね! ちなみに見る人によってはグロテスクと言う人もいるけど、私は可愛くて好きよ。特にイエロージャイアントヒヨケムシのアルビノっぽい体色とアンバランスな体型、一つ目みたいに見える丸い瞳が可愛らしくて……」



と、語ったところで「ああっ!」と新川さんは叫んだ。


「ご、ごめんなさい。

 お客様相手に……虫扱いまでして……つい」


「いや、面白かったからいいですよ」


俺が「虫が好きなんですね」と言うと新川さんは頷いた。


「はい……」


「あと、カードゲームも」


そういえば、近所のショップ大会で似た人を見た気がする。

女性のTCGプレイヤーは珍しいから印象に残ってた。


たしか登録名は――


「新川さんって、もしかして『まゆっちぃ』さんですか?

 俺、いつもnoteでデッキ構築記事を読んでますよ!」


「えっ、あの誰得かもわからないファンデッキ構築を!?」


「競技目線だけだと見えてこないカードチョイスがあって、すげー参考になってます! それでいて勝ち筋の追求には真摯だし、カードプールの知識も深いし、本当にカードゲームが好きなんだなって感じで」


話してみると、俺たちは共通のタイトルを遊んでいたようだった。

こうして見ると世間も狭いもの。


今後、俺と新川さんは八王子のCS(中規模大会)決勝で激闘を繰り広げることになるのだが……それはまた、別の話で。



そういうわけで『ハッピー・エクリプス』の登録も終わり。

いくつかスキル取得やスキルランク上げの強化を行い、俺はダンジョン公社を後にしたのだった。


これで準備は万端。


「よーし、やってやるぜっ!」



そして――いよいよ、初コラボ配信の日がやって来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る