受け継がれしスキル!

――という感じで、回想も終わり。


あらためて、今の母さんを見返してみると。


柔らかい茶色の髪を左肩に流した上品なサイドテールは、あの美少女配信者としてのアニメじみたピンクのツインテール姿とは似ても似つかない。


落ち着いた色合いのブラウスに、細やかな刺繍が施されたロングスカートを合わせた姿は、まるで雑誌の中から抜け出してきたような洗練された大人の女性そのもの。

これもまた女子高校生の制服風にアレンジされた魔法の軽装鎧、そのミニスカートから張りのあるふとももを惜しげもなく晒していた姿とは対照的だった。


「星羽ミハル」――母さんのもう一つの顔。


俺がじっ……と観察していたことに気づいたようだ。

母さんは云う。


「どうしたの? リョウちゃん」


「いや……俺は母さんの配信はざっと切り抜きを見ただけなんだけどさ。母さんって、これまでに他の冒険者とはパーティを組んでなかったんだな」


嘘八百の年齢詐称設定が躍るWikipediaの個別項目にも、こう書いてあった。



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星羽ミハル(ほしはね ミハル、20XX年〈隠都〇〇年〉1月12日 - )は、日本の女性配信者、冒険者、アイドル、歌手。所属事務所はルミナサウンド。

愛称は「ミハぴ」[1]。

ダンジョン配信においては、その類まれな天性のステータスから発揮される圧倒的なフィジカルによるソロ攻略スタイルで知られる。

その愛らしい容姿と、時に「脳筋」とも称されるパワープレイのギャップがリスナーを魅了しており、ダンジョン配信業界ではカリスマとしての地位を確立している。


来歴[編集]

配信デビューは小学6年生という、当時としても異色のダンジョン配信者として話題になった。中学生時代には数々の高難易度ダンジョンを単独踏破し、その実力は冒険者としても高く評価されている。

ファンの呼称は「エンゼル」。

デビュー時から現在[いつ?]に至るまで、その外見がほとんど変わっていないことから一時期は「奇跡のロリ天使」という異名を取ったが、「ロリ」という単語が配信規約で禁止されたため、以降は自重するようにファンに呼びかけている。


スペック[編集]

ランク:A級

レベル:126

クラス:「狂戦士バーサーカー

ユニークスキル:非公開[2]


ミハミハスタイル[編集]

他の冒険者とはパーティを組まずにソロ攻略をすることで知られている。

相性不利な状況や、戦士職だけでは攻略不可能とされていた数々の困難な状況さえもフィジカルだけで強引に突破していくその特異なスタイルは、ファンからは畏敬の念を込めて「ミハミハスタイル」と名付けられた。

フォロワーも数多く、ダンジョン攻略スタイルの一つとして定着している。

ただし、このスタイルはあくまで星羽ミハル本人の圧倒的なステータスによるフィジカルの暴力によってのみ成立するものなので、素人[誰?]にはおすすめできない。


音楽活動[編集]

この節の加筆が望まれています。

主に:デビュー以降の活動


外部リンク

星羽ミハル -ルミナサウンド

星羽ミハル公式配信チャンネル

星羽ミハル公式SNS Instagram、Twitter(現:X)


[1]「ミハル」と「ハッピー」を合わせた「かばん語」。

[2]ルミナサウンド公式プロフィールより。ユニークスキル無しでA級以上に昇格する冒険者は極めて異例であるため、何らかのスキルを所持していると推測される。

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「……そうね」と、母さんは視線を逸らした。


「私がパーティを組む相手は、一人だけって決めてたから」


母さんの視線の先にあったのは――

父さんの仏壇だった。


「もしかして。父さんが冒険者をしていたのは知ってたけど……母さんも、昔から冒険者だったのか?」


母さんは頷いた。


「私たちが出会ったのもダンジョンだったのよ。ちょうど昨日のリョウちゃんの時みたいに、私があの人に助けられて。うふふ、今で言うところのダン婚」


「父さんたちもダン婚だなんて、知らなかったよ」


「当時はダンジョン配信なんて無かったから、周りで見てる人はいなかったけどね。私も、リョウちゃんのパパも、本名で活動してる無名の冒険者だったの」


「そうだったのか……」


母さんが「星羽ミハル」で、おまけにA級のランクを持つ冒険者だったのはビックリしたけど。少なくとも実力については合点がいった。


「すでに冒険者としての経験が充分にあったから、母さんはミハルとしてデビューしてすぐに結果を出すことが出来たわけだな。ゲームの二周目プレイみたいなもんだ」


「ちょっとズルいことをしたわね」

と、母さんは子供のような仕草でペロリと舌を出した。


こういう茶目っ気だけを見ると「星羽ミハル」と母さんには通じるものがあるな。


母さんはテーブルを立ち、父さんの仏壇の前に座った。

線香をあげて、手を合わせながら母さんは言う。


「……【影下分身シャドウメーカー】。昨日の夜、リョウちゃんのスキルを見たときには驚いたわ。あんまりにも、あの人に似てるものだから」


「俺も一つだけ、疑問があったんだ。

 ミハルが――母さんが、あの時に言ってたこと」



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「お兄さんのユニークスキルって……

 ひょっとして、お兄さん以外の影にも使える?」

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「俺は母さんの前では、自分の分身しか出していなかった。それなのに、俺のスキルが他人の影に対して使えるのかも……という発想が出てきたのは」


――すでに、似たようなスキルの存在を知っていたから。


仏壇のりんを鳴らして、母さんは振り向いた。


「リョウちゃん。今日は久しぶりに、お線香をあげましょう」



俺のユニークスキル、【影下分身シャドウメーカー】。


ステータスが低いばかりに使いこなすことが出来なかったけど――使い方次第では強力なスキルなのは明らかだ。

それが親から受け継いだものだと知り、俺の中に父さんの血を感じる。


かつて、母さんをダンジョンで守ったという力――


父さんはもういない。

でも、今度は俺が母さんを守ることができた。


「(ありがとうな、父さん)」


そう、感謝しながらも……

仏壇の前に座る俺の頭は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



「(俺、これから母さんと恋人営業すんだよなぁぁぁ!!!)」



ごめん、父さん。

配信者が数字が命……それが現代の現実。


家計を守るのも長男の務め。

アキは私立に通ってるし、来年は高校受験なんだ……!


――それに。


「(俺も大学行きたいしな、うん)」

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