VSグリーンドラゴン(中編)

「ミハルさん、MPよろしくっ!」


「オッケー!

 いっくよー、ミハミハ~……」


ミハルは俺の背中に手を当てて、スキルを発動する。


「エネルギーチャージッ!」


汎用スキル【MP交換スワップ】により、高レベル冒険者であるミハルのMPが俺の体内に流れ込んでくる。


本来は狂戦士バーサーカーであるミハルにはMPの使い道は少ない。

使いどころもなく、ありあまったMP――

そのMPを、俺が存分に使わせてもらうぜ……ッ!


供給されたMPはあっという間に俺の上限値を突破した。

HPとは異なり、MPは回復アイテムやスキルによって上限値を超えた場合には短時間のあいだ一時的に保持することができる特性がある――

本来の俺の上限値を超えて、MPは次々と加算されていく。


100、500、1000、2000、5000……ッ!


「ありがとう、たぶん――これでいけるはずだッ!」


「んっ……ミハルも、もう、大・限界かもっ……!」


一方、俺たちを発見したグリーンドラゴンが迫る!


「グゥゥゥゥ……!!!」


――もうすぐで、奴の近接攻撃の射程範囲に入る。


俺はグリーンドラゴンの前に立ちはだかった。

天井からの光源を確認し、慎重に位置関係を計算する。


「グオオオオオオーーーッ!」


「来いッ!」


その射程範囲に入る直前で――

俺は、地面に落ちる「影」に触れた。


「【影下分身シャドウメーカー】ッッッ!」


MPを消費することで、触れた影を実体化する俺のスキル――実体化した影は影人形となり、俺の指揮下に入り――影人形の戦闘力は、影の持ち主に依存するッ!


「グゥゥゥ!!?」


「そうさ――」


俊敏にして強力無比、触れたもの全てを紙のように切り裂くグリーンドラゴンの恐るべき爪攻撃は――こと物理攻撃に対しては無敵の防御力を誇る、堅牢な黒き鱗の鎧によって阻まれる――俺とミハルを守るように立ち上がった黒一色の影の竜!


その竜の名は……!


「さながら『煉黒竜ファヴニール』とでも名付けようか――

 生者と死者の世界の狭間より生じた反存在。

 グリーンドラゴン。



影下分身シャドウメーカー】は、俺が触れた影でさえあれば、どんな影であろうと、誰の影であろうと、影人形として使役することができる。

そのスペックは影の持ち主が強ければ強くなるほど強力になる――影の持ち主の能力を継承する――グリーンドラゴンの物理攻撃に対する異常な耐久性も例外ではない。



『煉黒竜ファヴニール』はいわば最強の盾である――!


事態を理解できていないグリーンドラゴンは、その爪を何度も影の竜へと振り下ろす――しかし、何度打ちつけようと影を打ち倒すことは叶わない。


「グオオオオオオッッ! グガァァァァ!!!」


「ははっ、物理攻撃は効かねえんだよッ!

 お前の極端なステータスが裏目に出たな……!」



ミハルから供給された膨大なMP、その半分を持っていかれたが――それだけの甲斐はあった。

グリーンドラゴンの攻撃力では、グリーンドラゴン自身の防御力をコピーしたファヴニールに対して決定打にならない。

堅牢な鱗による「装甲アーマー」を突破してダメージを与えられないのだ。


もっとも、それはファヴニール側も同じなのだが。



「将棋や囲碁で言うところの「千日手」ってやつだな……!」


「ううん。囲碁の場合は「こう」って言うんだよ」


ミハルが俺の近くに駆け寄ると、服の袖を引いた。


「お兄さん、今のうちに逃げようっ!」


「いいや、ここでグリーンドラゴンを討伐する」


「え……?」



「もし追いかけられたら、周辺の冒険者に二次被害が出るかもしれないしな。大丈夫、勝算はあるんだ。ミハルさん、俺を信じてくれ」



ミハルの方を振り向くと、彼女は「ぽおっ」と呆けた顔をしていた。


「ミハルさん……?」


「…………んんっ」


先ほどまで青ざめていたミハルの頬に赤みが差している。

もしかして、体調不良からの発熱なのか……?


「だ、大丈夫か? MPを貰いすぎたかな」


「私は……ミハルは大丈夫っ。それよりも、どうやってドラゴンを倒すの?」


「ブレス攻撃だよ」


成体のドラゴンが吐くブレスは、それ自体が魔力を帯びる。

物理攻撃が通じないなら、魔法攻撃というわけだ。


ブレス攻撃にはドラゴンの体色に合わせた性質が付与される。

グリーンドラゴンの場合には「毒」――!


「わかった! あの黒い方のドラゴンにブレスを吐かせるんだね!」


「ファヴニールな」


「A級モンスターは自身と同ランク未満の対象からのバッドステータスを受けない……でも、お兄さんが操る影ドラゴンは同じA級モンスター扱いだから。ブレス攻撃による「毒」が通用するってこと、だよね!」


「それは――ちょっと違う」


ミハルの推測は惜しかった。

影下分身シャドウメーカー】で生成した分身には欠点が存在する。

それは影の持ち主のスキルは受け継げない点だ。


「魔法攻撃であるブレスはスキルの範疇に含まれる。だから『煉黒竜ファヴニール』にはグリーンドラゴンのようなブレス攻撃は使用できないんだ」


「じゃあ……どうやって勝つの!?」


「まぁ、見とけって」



一方、グリーンドラゴンは物理攻撃が効いていないことに気づいたようだ。

無駄な爪攻撃から、有効打となりうるだろう魔法攻撃に切り替える。


魔法攻撃とは、すなわち――



「グオオオオオオオオーーーーッッッ!」



グリーンドラゴンの口腔に魔力が満ちる。

その一息は災害の域。

触れたものを蝕む毒素の奔流が放たれる――


必殺のブレス。


その刹那の瞬間に――

俺は「もう一体の影」を生み出した。

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