実の母親と恋人営業だって!?
「俺がダンジョン配信者を始めたのは、配信なら儲かると思ったからだ。実力がない冒険者でも、配信でバズったら人気者になって、企業がバックに付いてサポートチームを作ってくれたりとか、色々あるからな……だがっ!」
母さんの場合は、それだけじゃない。
「はっきり言うぞ。母さんは若い女の子のフリをしてリスナーにチヤホヤされるのが楽しかった……違うかッ!?」
「ち、違うわ……! 私が配信者をしていたのは、純粋にリョウちゃんとアキちゃんを養うためよ。お願い……信じて、リョウちゃん!」
「じゃあ、なぜ俺たちに配信者だと黙っていたんだ?」
母さんはピタリ、と石のように止まった。
「自分が星羽ミハルとして楽しんでいるのを見られたくなかった……そうなんだろう!?」
ちなみに、アキは母さんの正体が星羽ミハルだと気づいていなかったようだ。
好きな配信者の正体が母親だと気づかないまま「推し」として応援していた……ファン活動というのは、ついつい目を曇らせてしまうものなのかもしれない。
だが、俺の目は曇らない。逃がさないぞ、母さん!
「……認めるわ」
ふっ、と母さんは微笑した。
「リョウちゃんの言うとおりよ。私はメイクのスキルで若作りをして、現役JKに成りすましていた。それが楽しくて楽しくて……仕方なかったわ!」
「JK? さっきの動画では中学生って言ってなかったか」
「あれはデビューしてすぐの頃の動画ですもの。それから容姿が一切変わらない……リスナーは私のことをこう呼んだわ。”奇跡のロリ天使”と」
き、奇跡のロリ天使だと……!?
ロリを名乗るには色々と無理があんだろ。
その……主に上半身の一部分が!
母さんはむにゅ、と豊満な胸を張って言った。
「リョウちゃんも知ってるでしょう、私は昔から背が低くて童顔だったから……電車に乗るときもよく「子供料金でいいよ」と改札の人に止められていたことを」
「ああ、知ってる」
「一緒に歩いていても、リョウちゃんの妹だと思われることはしょっちゅうで、ひどいときにはア、アキちゃんの妹扱いすらされてたことを……!」
「わかってるよ……!」
「でも、その裏でずっと……配信の世界では私は”奇跡のロリ天使”だったのよ!」
「ぐあああーっ! や、やめろーーーっ! 母さんが世間で”奇跡のロリ天使”扱いされてるのを知って、息子がまともでいられると思うか!?」
「現役配信者ランキングでは余裕のTOP10をキープしているわ」
「大人気じゃねーか! この国にはロリコンしかいねーのか!?」
「エンゼル(リスナー)の悪口を言うのはやめて。みんな、日々のお仕事の疲れで大変なの。私の配信には純粋に癒しを求めて来ているし――親切で良い人ばかりよ」
「そ……それは悪かった」
実際、エンゼル(リスナー)のおかげで俺は今までメシを食ってきたようなもんだしな。それに悪態をつくのは、良くないか……。
「星羽ミハル――配信者としての私にとってはね、エンゼル(リスナー)はまるで保護者みたいに優しい存在で……あ、そうだわ!」
ポン、と母さんは手を叩いた。
「リョウちゃんにお願いがあるの。いい?」
「ダメだ」
「せめて内容を聞いてっ!」
「この流れでの頼み事、絶対にろくでもないだろ!」
母さんは俺の拒否を無視して話を進めた。
「昨日のリョウちゃんの救出劇がバズったでしょ?」
「たしかにバズってた。ネットニュースにもなってたし、俺のチャンネルの登録者もこれまでは3人だったのが、今朝には3000人ちょっとまで増えてたな」
「さ、3人……かわいそう」
「……俺の登録者数のことはいいだろ。で、頼みって?」
「事務所の人が言うにはね、これでダン婚需要が出るんじゃないかって」
「ダン婚?」
「ほら、つい最近、人気配信者のプラムさんが結婚したでしょ? あれって、お相手はダン婚だったのよ」
だんこん、だんこん、と母さんはよくわからないことを連呼しているが……俺もようやく飲み込めてきた。
「プラムって、たしか一年くらい前にダンジョンでピンチだったところを別の配信者に助けられてなかったっけ。それからパーティを組んで、コラボ配信もしてたとか……つまり、ダン婚ってのは『ダンジョンで出会い結婚』のことか?」
「そのとおり。ダンジョンに出会いを求めるのは間違ってるだろうか、なんて話は今は昔……現代は恋人や結婚相手はダンジョンで見つける時代よ。リスナーも求めているのよ――そういった、奇跡の出会いから始まる筋書きの無いラブ・ストーリーを! これこそが現代最強のコンテンツ、数字を取るには最も「丸い」手段なのッ!」
おいおい、ちょっと待てよ。
母さんの頼み事ってもしかして――
「そういうわけで、リョウちゃんにお願いなんだけど。
「星羽ミハル」の……恋人役になってくれない?」
さ……最悪の、最悪だッッッ!
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