ダンジョン配信者という職業
ダンジョン――
半世紀ほど前に日本に現れた謎の構造物群である。
時の首相である田中
ダンジョンは人口密集地に出現しやすい法則がある。
中でも首都である東京都には数多くのダンジョンが出現し、俺たち以東家が住む立川市も、国のダンジョン頻出地帯の一つに数えられる地域だ。
東京にばかりダンジョンが出現する理由の一つとして、一説には明治時代の実業家である渋沢
ともあれ、ダンジョン探索とモンスター討伐によって得られる
当然ながら、ダンジョン探索が許可される「冒険者資格」を持つ者もヒーローである――と言いたいところだが、実際にはピンキリなのが現実だ。
冒険者は完全なる才能至上主義のセカイ。
生まれ持った資質によってステータスは大きく変わる。
一応、モンスター討伐を繰り返せばレベルアップできるが……元の数値が低ければ、伸びしろはたかが知れている。
もちろん、俺は「無い」側の人間だ。
初期ステータスは最低レベル。
敏捷力に優れる
だから――俺はダンジョン配信者を始めたのである。
「ねぇ、リョウちゃん」
「ん?」
「リョウちゃんはいつから冒険者になったの?」
「つい最近だよ。浪人が決まってからだな。最初はバイトでもして、家計の足しにしようかと思ったんだけど……ほら、父さんも冒険者だったろ? 俺にも適性があるんじゃないかと思って試験を受けたら、合格したんだ」
「私……知らなかったわ」
「今の日本では、成人年齢が18歳だからな。未成年が冒険者になるには親の同意がないと無理だけど、法律上では俺は大人だから……」
「そうじゃなくて……どうして、言ってくれなかったの?」
ふと見ると、母さんが泣きそうな顔をしていた。
「冒険者が危険な仕事だってことくらい、リョウちゃんだってわかってるでしょ? 今は昔と違うから、死亡事故なんてめったに起きないとはいえ……それでも怪我をする可能性だってあるのよ。冒険者になるなら、一言、相談してほしかったわ」
「……それは、ごめん」
でも、言ってなかったのはお互い様だ。
「母さんだって、俺に隠してたじゃないか。自分が冒険者をやってて……それに、ダンジョン配信までしてたって」
理由の想像はつく。
ダンジョン配信者は現代のジャパニーズ・ドリームだ。
子供のなりたい職業ランキングでも上位の常連だし、人気配信者は視聴者の投げ銭だけで一晩で数千万稼ぐこともあるという。
母さんは女手一つで俺たちを育ててくれた。
きっと、そのお金の出処は……
「ダンジョン配信をすることで、俺やアキに良い暮らしをさせてくれてたんだよな。そうなんだろう?」
「……そうよ。これも、リョウちゃんとアキちゃんのため」
「本当に、それだけか?」
「え……?」
「俺は、見たんだ」
母さんが帰ってくるまでのあいだに――
「星羽ミハルの、切り抜き動画をなぁ……っ!」
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「初めまして、星羽ミハルです。
ミハミハ~☆」
「今年から中学生になりましたっ!
えっ、入学祝いのスパチャ?
やったぁ、大感謝! ありがとうございまーす!」
「ううーん、おねむかも……でも、頑張って配信するネ! 未成年なのに大丈夫なのかって? 未成年の深夜労働の制限……? えへへ、ミハル、よくわかんないなっ!」
「事務所の人に聞いたら、冒険者は労働基準法の例外なんだって!」
※マジです
「ミハル、パパがいないから……エンゼル(リスナーの呼び名)のみんなが保護者みたいに優しくしてくれて、とっても嬉しいんだ。大・大好きだよっ♪」
「ミハミハ~~~、スターウィング・スラーシュッ!」
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「……母さん。何か言い訳はあるか?」
「黙秘するわ」
「黙秘権なんてねーよッ!」
動画を見るたびに、俺の心はすり減っていった。
母さんのことは尊敬している。
俺やアキがすくすくと育ったのは母さんのおかげだ。
理性は母さんに寄り添いたいが、心が叫んでいるッ!
「配信者をやるにしても、
キャラ付けが……きついだろ!」
「仕方ないじゃない……これも事務所の方針なのよ」
アイスコーヒーをずずず、と飲んで母さんは云った。
「みんな……若い女の子が大好きなの。
これが自然の摂理……競争原理の行きつく果て!」
「それでこれが納得いくかーーーっっっ!」
っていうかだな。そもそも、年齢詐称してないか?
おい。
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