変わりゆく、己に気付かぬ愚か者
実弾を使った射撃訓練の翌日から、午前はいつものランニングと座学、午後はそれぞれ別の訓練になった。
セイラはスナイパー適正があると判断され、射撃場に籠ることとなり、ジュリアは敷島教官と体術訓練。
サキとユウキはドーリーと呼称される、自衛軍の異世界における巡回警備の移動手段である、巨大な装甲車の運転技術と整備を叩き込まれている。
そして、サトシはエリナと共に無骨な武器の扱いに苦労していた。
「んぅ!重いぃ!重すぎです!」
エリナは顔を真っ赤にしながら白虎型分隊支援火器二式の重さと反動に苦戦している。
巡回警備時に乗ることとなる、ドーリーの背面にある銃座に装備されており、魔法処理された特殊な弾丸を大量にばら撒き、レッサーデーモンクラスなら殲滅できるパワーがある。
しかし、故障しない事を至上命題として開発された武器故、どうしても重量が重くなってしまう。
さらに自動制御が不可能な為、人力での運用が必要なのだが、小柄なエリナにはかなり辛い武器である。
「ぐぅ!体がバラバラになりそうだ、、、」
そのエリナから少し離れた場所で、サトシは更に巨大な武器の反動に体中が悲鳴を上げていた。
巨大な装甲車であるドーリーの側面にあるサブウエポンの機関砲6門は、運転席にある火器管制で制御されている。
しかし、メインウエポンである朱雀型滑空砲二式は人が撃たなければならない仕様となっている。
開発段階から何とか出来ないかと研究が続けられてはいるが、魔法処理された火器は何故か自動制御が出来なくなる。
爆発的に威力が上昇する代わりに、その扱いは困難を極めるものとなった。
休みなく撃ち続け2時間後、サトシは満身創痍で地面に転がっていた。特に腕から肩にかけての痛みが酷く、水を飲む事すら出来ずに呻いていた。
「こ、これくらいで動けなくなるなんて、だらしないですよ!その体は見せかけですか!」
エリナが罵ってくるが、彼女も全身から湯気が出るほどに汗をかき、足はカクカクと痙攣していた。
「きちんと水分を取りなさいな!脱水症状になりますあっ、、、」
目を瞑り痛みを堪えていて、答えることすら出来ずに大の字になって転がっていたサトシに上に、何か柔らかいものが乗ってきた。
「あ、あ、足がもつれて、、、あの、、、あの、、、」
サトシにスポーツドリンクを渡そうと近づいてきたエリナが転び、ちょうどサトシの上に乗る形になっていた。
大きな胸の柔らかな感触と汗の濃く甘い匂いにくらくらする。
ハッハッと熱く息を吐きながら、真っ赤になり動けないエリナの華奢な腰を掴み、痛みを堪えて何とか立たせる。
「エリナさん、大丈夫?怪我はしていない?」
真っ赤になり呆けていたエリナは、我を取り戻していつものように怒鳴る。
「へ、平気です!幼い頃から鍛えていますから!あなたみたいなだらしない生活をしていたと、見ただけで分かる体ではありませんから!」
その調子にサトシは安心する。
「うん、エリナさんは鍛えていてすごいよね。ジュリアさんも感心していたよ。少し痛みも治まってきたし、片付けて報告に行こう」
その言葉にエリナは黙り込む。
「ドリンク、ありがとうね」
今度は悪態は返ってこなかった。
1時間をかけて片付けを何とか終えて、整備員に挨拶をし、敷島教官に報告を超える。
「絵崎、測定班からデータが来ている。命中率に課題はあるが、初めてでこれだけ撃てれば上等だ!明日からも励め!」
ダメ出しばかりの憧れの英雄から初めて褒められて、エリナは目を輝かせる。
「はい!必ず使いこなしてみせます!」
次はサトシの番であるが、教官は何故か何も言わずに、休めの姿勢を維持している体に触れてくる。
首、肩、腕、胸、腰、足を順番に触り、納得したように頷く。
「大山、痛みはあるか?」
そう言われて気づく。1時間前まで、あれだけ酷かった全身の痛みがほぼ消えている。
「あれ?ありません、、、何で?」
その様子に嘆息した教官は、声を張り上げる。
「絵崎!大山!本日の訓練は終了!シャワーを浴びて着替えた後、資料室での自主学習をせよ!以上!解散!」
その言葉に徹底的に仕込まれた敬礼を返し、2人は安堵する。ようやく一日が終わったのだと。
「流石は立花さんからの推薦を受けただけありますね、敷島教官。あの朱雀型を2時間も撃ち続けて、どこも骨折していないなんて」
同僚の朝日ナホ教官が話しかけてくる。朱雀型滑空砲は反動があまりにも大きい為、訓練された自衛軍でも使える者は多くない。
多少、威力が落ちて反動が少ない訓練用の弾頭だとしても、2時間も撃ち続けられるのは驚異的だ。
「大山はゲートの影響を強く受けています。身体能力はここに来た日から、毎日、約8%上昇しています」
その数値に呆気にとられる朝日。
「それは、、、そんな事が、、、」
自衛軍の正規部隊でも、そこまでの能力の上昇を記録した者は、目の前にいる敷島のような例外中の例外以外、ほぼ存在しない。
愚か者は、今だに自分の体に起こった変化に気がついていなかった。
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