決意はしたものの、武器を撃ち怯える愚か者

午後からは、持って走るだけだった軽機関銃の実弾訓練が始まった。


 訓練生には自衛軍の基本装備である青龍型軽機関銃に、異世界の技術が組み込まれた青龍型改が貸与されている。

 強靭な防具を装備するデミデーモンの大軍や、極めて柔軟かつ再生能力に優れたレッサーデーモンの群れと接敵した場合、急所をピンポイントで撃ち抜かない限り、軽機関銃で倒しきる事は難しいらしい。


 魔法や儀式と呼称され、科学とは全く異なる技術体系により、青龍型改にはデーモンの装備する防具を貫通し、再生を阻害する効果を弾丸に付与する魔法がかけられているという事だ。


 3万人もの戦闘員の異世界常駐と補給部隊の展開を条件として、異世界の国々からもたらされた技術の結晶らしい。



「伊知地!宇部!ふたりはもういい、次に進む!青山!絵崎!脇を絞めろ!柏原!腰を落とせ!大山!キサマ震えているのか!?臆病者は真っ先に命を失う!それ以上に仲間を危険にさらす!怖いなら辞めろ!今なら金を失うだけでママに縋りついて除隊出来るぞ!」


 教官の叱責に、命を奪う武器を撃つ恐怖に震えがとまらなかったサトシは、腹に力を入れてデーモン型のターゲット目掛けてトリガーを引き、動きながら弾倉を交換して、走りながらまた撃ち続ける


「そうだ!動け!動け!動け!デーモンどもの力は巨大なヒグマ以上だ!人間の体なんぞ、紙クズみたいに潰してくるぞ!アイツらは人間をオモチャにして、飾り立てる趣味まであるクソだ!ただ、グレーター以下のデーモンの動きは遅い!動きながら撃ちまくれ!そして、デーモンがいると周囲に知らせながら逃げろ!自衛軍の正規部隊がいる陣地まで逃げろ!」


 顔は優しそうなゆるふわ系美人だが、敷島教官の口からは絶えず訓練所全体に響くような罵声が飛んでくる。

 ジュリアとセイラを別の場所に連れていき、自分達と一緒に4時間近く動き回っていたはずなのに、地面に倒れて動けない4人に平然と言い放つ。


「動けるようになったら、すぐにストレッチをしてからシャワーを浴びて、必ずメシを食え!明日は今日以上にキツいぞ!では、解散!」


 疲れを一切見せず、装備をカウンターに返還し、軽やかな足取りで去っていく。





「俺らの教官は化け物か、、、息が一切乱れてなかったぜ、、、」


 食欲ねぇと言いながらも、大盛り牛丼と豚汁3杯を平らげたたユウキは愚痴る。


「当たり前でしょ、敷島スバルといえば4つのギフテッドを授かって、自衛軍と異世界軍の混成部隊に偵察隊として抜擢され、大侵攻を生き抜いた英雄ですからね!」


 ユウキの言葉に珍しく鼻息荒くエリナが応じる。実はエリナは自衛軍オタクである。異世界で活躍した自衛軍兵士の逸話には怖いくらい詳しい。


「ギフテッドって異世界に行ったら30%くらいの確率で授かる能力って聞いたが、本当にあんのか、、、バカどもの英雄願望を煽るおとぎ話だと思ってた」


 ユウキに負けず、特盛中華丼と餃子を平らげながらサキは信じ切れていないようだ。


「あるよ〜実はわたしも持ってるし〜何か目が良くなるのと〜体が柔らかくなるみたいなの〜だったかな〜?母が妊娠中に〜異世界観光したとかでさ〜」


 モリモリ食べるサキも可愛いなぁと呟きながら、うっとり見つめるセイラ。


「セ、セイラさん!2個もギフテッドを!?ダブルではないですか!すごい!なんて羨ましい!」



 いつも、何かに急かされているように苛々しているエリナも身近に憧れのギフテッド能力者がいると知り、年相応の笑顔になっている。



「ボクもひとつだけ持ってるよ!お姉ちゃまが小さな頃に、異世界に連れて行ってくれた時に授かったんだ!体ががんじょーになるだけだけどね!」


 得意満面なジュリアは1杯2キロもある洗面器みたいな皿に盛られたカツカレーを3杯平らげて、さらに何を食べようか悩んでいる。その鮮やかな食べっぷりにを見たサトシは、この子はフードファイターなのかなと思う。


「ギフテッドかぁ、、、学生の頃は憧れたなぁ、、、授かるといいけど、30を過ぎると5%以下になるって聞いたことあるからなぁ、、、」


 アジフライ定食を何とか完食したサトシ。年齢が上がるごとにギフテッドが授かる確率は下がり続けていき、30歳を過ぎると5%以下になり、35歳を過ぎると3%以下になると結果が出ているということだ。


「貴方はどうしてそう卑屈なの!見ていてイライラします!必ず授かって、皆を守る気概を持ちなさいな!貴方は立花ミユキに推薦されたのでしょう!?もう少し自信を持たれたら如何!?」


 立花ミユキさんといえば、サトシが職安でお世話になった人だ。


「立花さんは職安の人だよね?エリナさんの知り合いなの?」


 なぜ知らないの!?と叫んだエリナは詳しくとんでもない早口で教えてくれた。


「立花ミユキですよ?あの『セイレーン』立花ミユキ!スカウトした訓練生の9割がギフテッドを授かる英雄の導き手!あの方にスカウトされるなんて、ギフテッドが約束されたも同然です!」


 へぇそんなすごい人だったんだぁ立花さんと感心するサトシに、こいつは何を言っているんだと地団駄を踏むエリナ。

 エリナがサトシに強く当たっていたのは、立花ミユキにスカウトされたのが、羨ましくて仕方なかったのに、選ばれたのが自信のかけらもないおじさんだったからだ。


「そうかそうだったのか、、、エリナちゃん with オマケども、、、安心しろ!実は俺もミユキちゃんが担当だったんだ!俺のチート能力見抜かれちまったんかぁ、、、ツレェなぁ、、、俺、またなんかやっちゃいました?的な?主人公はツレェなぁ」


 鼻の穴を膨らませて元気を取り戻したユウキはふんぞりかえる。


「よーし、おめーら!明日からも気合い入れて訓練キメてこうぜ!俺のチーレム物語の序章だからよ!」


 少し沈んでいた空気は明るくなり、翌日の為に6人は自室に戻る。

 僕にも何かあるのかな?と愚か者は夢想をしながら、眠りにつく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る