第10話

 グリ-ン十字の入社式は、四月四日大阪本社で執り行われる予定である。時間は午前十時開始だ。健一は二日の夜行列車で博多を出発した。駅まで母が見送りに来てくれた。大阪に着いたら、本社の近くにある旅館『川口屋』に待機することになっていた。そこに、四日の入社式に出席するためのスケジュール表が会社から送られてきている手筈であった。毎年、この旅館を貸し切っているらしい。

 健一は三日の朝、八時過ぎに大阪駅に着いた。駅からはタクシーで旅館に向かった。旅館の女将さんは心得たもので、直ぐに部屋へ案内して呉れた。ここをこれから研修が終わる迄、定宿として利用するらしい。

 既に早めに到着していた、広島支店要員の大野さんが自己紹介をしてくれた。健一も挨拶を返した。部屋は六室貸切っていて、今いるこの部屋は、全員の集合場所兼荷物置き場として使用する部屋であった。残りの五部屋はグル-プごとの生活部屋となるらしい。

 新入社員名簿によると、今年の新入社員は学卒者では二十二人だ。全員男性だった。

 次から次へと新入社員が到着してきた。

 全員が到着したころ、本社の社員が、男性、女性それぞれ一人ずつ現れた。彼等から部屋割り表を渡されて、皆、各自が割り当てられた部屋に散って行った。今日の予定は夕方、本社主催の新入社員歓迎会があるだけだった。それまでは自由行動である。

 この旅館には建物が二棟あって健一達のいる棟は研修用に造られているようだ。その為に一般のお客さんとは接触が殆どないような構造になっていた。健一は旅館内を観て廻りながらそのことに気が付いた。

 歓迎会には旅館の大広間が使われた。

 専務以下、役員、部長、課長たちが出席して大いに賑わった。

 新入社員は、各自ひとりずつ舞台壇上に上がって、自己紹介をして、今後の抱負を語って大いに気を吐いた。会は十時にお開きとなった。

 翌日、昨日の人事課員の二人が八時に迎えに来た。全員本社まで人事課員の後について歩いて行った。五分くらいの距離であった。そして、着いてから呼ばれるまで、三々五々、エントランスホ-ルのソファに掛けて式の開始を待った。

 十時五分前に人事課員に呼ばれて、皆、講堂の方へ移動した。新入社員は講堂の壇上に向かって四列に並び、社長、副社長から入社の祝辞と訓示を受けた。そして、一人ずつ辞令と社章を社長より受けとって、式は終了した。午後は自由行動となった。

 健一は一旦、旅館に戻って、Tシャツとジーンズに着替えて一人で梅田まで出かけた。


 翌日から研修が始まった。初めの一週間は各課の課長による講義だった。二週目からは週単位で、総務課、経理課、人事課、物流、工場と全課を廻ることになった。人事課長が言うには、この形での研修は三年前から実施されるようになったとの事。幹部候補生が会社の概要を知るためらしい。各課の仕事の内容と流れを実際に経験して、毎週の金曜日にレポートを提出すると云うものであった。土曜、日曜は休みである。

 延べ一ヶ月半の研修が終了して、健一たちは、それぞれの配属の支店に散って行ったのである。


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