9-伊藤-心霊写真の写真の話

 さっきの盗撮ビデオ?盗撮映画だっけ。あれみたいな話なんだが、うちのサークルにもあってな。


 あっ、俺、写真研究会。伊藤。だからまあ、怖い写真の話だ。


 心霊写真の写真があるんだよ。


 言い間違いとかじゃなくて、心霊写真を撮った写真。部長だけ見れるやつってか部長しか見ちゃダメって言われてたやつなんだけど、今はみんな見れる。何代か前の部長が風邪で寝込んでる時に、その写真のこと知らない部員が大掃除で見つけちゃったらしくてな。年末の大掃除だったからほとんどの部員集まってたのもあってみんな見ちゃったならいいかってことで今じゃ触れてもいいタブーみたいになってんの。


 それで、写ってるやつなんだけど……なんていうんだったかなぁ。

 たぶんなんだけど、旅館かホテル、だと思う。思います。なんだっけ、部屋と窓の間になんか椅子とか置いてるところ。……広縁だったかな。すまんな、ド忘れしちゃって。で、和風だからたぶん旅館とかそういう感じ。個人の家でもそういうとこもあるかもしれないけど、一室だけだし、合宿中の写真ってだけは聞いてるからたぶん泊まった旅館だと思う。


 写真に写ってるものとしては……いや、被写体の写真に写ってるものとしては、だな。レポート用紙が広げられた机と、椅子に座って笑顔でピースしてる女の人と、その人の顔を掴むような黒い影。撮ってる人の手が影になって写ったとかじゃないんだよ。顔の皮膚まで引っ張る影ってないだろ?だからあれはマジだ。その写真もあるし、見てみたけど加工の形式は無かった。被写体の人たちはもう大学にいないから特殊メイクなりなんなりやりようはあったかもしれないが、うちのサークルはそういう伝手もなければ加工バチバチにするようなサークルでもないんだ。


 話を戻すけど、問題の写真、『心霊写真の写真』の方は、心霊写真で女の人が写ってるところでも、顔でもなく、なんもない窓の外、青空を指さす人差し指があるんだよ。それだけの、写真と指だけの写真なんだけどな。

 指さされてるところを注視すると、色んなものが見えるらしいんだ。

 だいたい三パターンで、人、服、靴のどれかが落ちていくのが見えたって言うんだ。比率だと5:3:2ぐらいだな。俺が入ってからの四年だとそれくらいだったと思う。俺は服だった。黒いワンピースがひらひらと落ちてくのが見えて、画面外に行ってからはもう二度と見えなかった。

 ん?あ!言い忘れた。それ、注視してたら動くんだよ。写真なのに。目が離せなくて、落ちていくのが見えて、画面外に出て行ってからようやく気持ちが落ち着いて、それでなんなんだあれってザワつく。うわー、途中で言うはずだったのに。話し下手だな俺。

 それで……えっと、落ちてく物の話はしたな。靴だと割と一瞬で落ちてく。だから良く見えなかったけどなんか落ちてましたって言ったら靴ってことになってるところもある。服だとひらひらしてたりすれば割と長いが、それでも数十秒ぐらいかな。

 人は、他のやつより落ちる時間短いのに、ずっと忘れられないらしい。

 思いっきりこっち向いてるんだとよ。しかも満面の笑み。不自然に口角が上がって、目をぎゅっと瞑ってる笑い方。俺は聞いただけだが、怖くないか?その表情。

 俺も興味はあるんだが、あれから何回見ても結局変わりはないんだ。興味あったらぜひうちのサークルに……と言いたいんだが、それを言えないのはこの会の主催者とある話をしたからだな。


 主催者、親だか親戚もこの会の運営側だったらしいんだが、彼ら彼女ら曰く、二十数年前も、この会でこの話をした部長がいたらしい。

 でも、その時の話だと、落ちていく人の顔は助けを求めるような泣き顔だったらしいんだよな。


「……もしも、落ちていくその人に意志とか、記憶とかがあるとしたら?何回も何回も落とされるのを体験してたとしたら?もう笑うしかなくなって、落ちていく景色を見たくないから目をつぶってるとしたら?」

「そんな風にできるのを作れる人が、これを遺して、伝えていけって言ってるのって怖くない?」


 以上があいつが言ってた内容。俺としては心霊写真の写真でパンチあると思ってたから蛇足だと思ったが、まあ、グダグダな話だったしせっかくなら全部話して厄払いってところだ。微妙に、部長一人だけしか見ちゃいけないってのとも符合する気がしてぞわっとはするがな。あとはまあ、それがマジだったら幽霊でも気の毒だからな。あれはむやみやたらには見せないようにしようとは思ってる。


 以上で俺の話は終わり。他にも心霊写真でも心霊写真じゃなくても、写真全般あったらうちのところまでどうぞ。


 ……あっ、忘れてた。次どうぞ。

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