10-和賀-謝罪電話の話

 私の先輩に不良っていうか、なんだろうね、ガラ悪アッパー系のオカルトオタクって感じの人がいるんだよね。


 普通不良って幽霊とか馬鹿にしてたりするじゃん。だから心霊スポットとか行くのって自分が馬鹿にしてるやつにビビってるやつを仲間内で見つけるために行くんだと思うんだよ。マウント取らないと死ぬ生き物だからさ。馬鹿だよね。って言ってる私も同じ穴の狢かもしれないね。まあ私も昔はそんな感じだったから。でも、少なくとも当時でも今でも不法侵入とかしてないだけ私の方がマシだと思うよ。


 話ずれたけどさ、その先輩はそういうタイプと違ってね、めちゃくちゃ心霊スポット下調べして、ネットから雑誌、図書館、マジで近くに住んでる人に聞き込みするとか熱量が変な方向に向いてて熱くなってる人なの。しかも意外と少なくないんだ。そういう変な趣味の人。男女混合で十人弱ぐらいでグループみたいなのあってさ。しょっちゅうどこそこの心霊スポットがどうだこうだって話してる。何で知ってるかっていうとだいぶ前に無理やりグループライン入れられてまだ抜けてないってだけだけどね。ミュートしてるしたまにしか既読付けないぐらいでも文句は言われないけど、ブロックしたりすると怖いなぁって感じの人たちだからさ。バールとか使い慣れてんだよ。現代日本で。怖くない?


 まーた話ずれたね。今日の会に声かけられたのさっきなのもあってまだまとめきれてなかったわ。今話しながらだいたいまとまったから巻いて行くよ。

 その人たちが行く場所に選ぶ基準ってのがね、『確実に人が死んでいる』ってことなの。死んでないと幽霊が出ないからって理屈らしいんだけど、人死にが出たところって封鎖されたりするじゃん。そういうところを踏みにじって土足で荒らしていくのが幽霊を呼ぶコツなんだってよ。馬鹿らしい。


 だから関わりたくないし、あっちからも関わっては来ないんだけど、こないだ、急に先輩から個人ラインの方に通知が来たんだよね。先輩が卒業してからだから三年ぶりぐらいに?急すぎ。

 次に行くのは廃病院だってのはグループの方で時間から持ち物から誰がどこのルートで行くやら細かく決めてたから知ってたんだけどさ、時間帯はまだそこのところにいるぐらいの時間だったんだよね。

 なんか助けてくれとか車出してくれだったらやだなと思いながら、未読無視してる間にも何回も通知着てるし、しまいには電話鳴りだしたから意を決して出たんだよ。


 もしもし、すら言う前に「ごめんね。ほんとにごめんね。とてもごめん。」って連呼しだすの。


「いや、なんすか急に」

「ごめん。本当に、今までも、ごめんなさい」

「あの、なんですか?割と夜遅いんで、用事あるなら早めにお願いしてもいいですか?」

「ごめん。すみません。申し訳ないです」


 って風に話がかみ合わない。延々と謝る先輩と意味わかってない私。もう切ろうかなと思ったけど時々挟まる「えっと」とか「まって」とかがこっちに向けてるのかわからないから惰性で聞いてた。

 もう画面から顔離して通話時間のところ眺めながら、十分ぴったりになったら切ろうかなと思って聞いてたら、違和感に気づいたんだよね。通話って普通顔の横に当ててするじゃん。だから声の大きい小さいって声量で決まると思うんだ。でも先輩の話し方は大きくしたり小さくしてる感じでもない。


 誰かが携帯持って、先輩の周りを歩いてるみたいな感じだと思った。


 急にその光景が頭に浮かんで、この謝罪がそいつ宛てだとしたら、なんで私に聞かせてるんだって思って。やばいって思って画面に手を伸ばしたらさ。

 パッって、ビデオ通話に切り替わって。


 気を付けの姿勢みたいに両手を足の横につけてる先輩の背中が見えて。


 背中が見えてるのに、無表情で「ごめんなさい」って口パクしてる顔も見えて。


 一瞬だったからもしかしたら見間違いかもしれない。もう一回かけなおす度胸もなかったし、巻き込まれるのが嫌だったからそこで何が起こったのかとか調べる気もなかった。

 ……今にして思えば、巻き込まれるのが嫌だからこそ調べるべきだったんだと思うんだ。ビビってないってことにしたくて、気にしてないふりして、怖いからって目を逸らした。


 ミュートにしてたグループライン、平日休日昼夜問わずぴこぴこ通知が上に上がってきてたんだけど、その日を境に誰も何も喋らなくなっちゃったんだ。

 でも、先輩のラインはまだ動いてて、あれからずっと、私宛に画像が送られてきてるみたい。既読はつけたことないよ。怖いもの。


 でも、罪悪感はあるからね。王様の耳はロバの耳じゃないけど、吐き捨てていこうと思って。


 その時は知らないようにしようと思って全部から目逸らしてたけど、今は少し興味出てきたからさ、もしもこの後この廃病院の話……サヤマの病院の話とかする人いたら、あとで私にも声かけて聞かせてよ。飯ぐらいなら奢るから。


 怖くて目逸らしたって、知らないで後悔することってあるからさ、後悔し始めてるから知りたいんだよ。私が何に祟られてるのか。あの謝罪は本当に私宛じゃないのか。知りたいの。早めに。


 というわけで、二年の和賀ノリカでした。


 次どうぞ。

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