小山-足音の橋の話
走ると、ずっと後ろで足音がするんですよね。
きっかけというか起源というか、そういうのはあの橋だと思います。
夜中に走ると追いかけられるって噂があるあそこの橋です。
そこで、まあ、走らされたんですよね。
いじめってほどじゃないですけど。お前らが大会で結果遺せないのは根性が足りないんだって。覚悟を決めないといけないって。
だから、夜なんだ。だから、この場所なんだ。怪談なんて打ち負かすぐらいの覚悟と根性で走れるようになったら最高の陸上選手になれるんだ。そんな無茶苦茶な理論で、俺含めて部長に嫌われてたやつら四人が呼び出されて、延々と橋の上でリレーやらされましたよ。
こっちと対岸で2人ずつ準備して、渡して、走って、渡して、走って、繰り返して。
電気だってほとんどないようなところだったから、怖くて仕方なかったです。
渡して、走って、渡して、走って。
息を整えながら次のやつが走ってくのを見て、あっちから来るやつに手を差し出してバトンを受け取る。
渡して、走って、渡して、走って。
リレーってかマラソンぐらいの距離走らされたと思います。
でも、途中でやめられませんでした。
車で来たけど運転してるのは部長の兄貴で、部長が、根性足りないやつは歩いて帰らせるとか言うから。こんな山道、怖いにきまってるでしょ。
震える足で必死に走って、タイムとかボロボロだけど、もういいよって部長に言われるか、せめて
ふらふらになりながらバトンを渡して、ぼたぼた落ちていく汗を拭いながら次のやつが走って行って、不思議に思ってました。他のやつも俺と負けず劣らずの落ちこぼれなのに、全然ペース落ちないんですよ。同じペースでバトンが来て、バトンを渡したら疲れなんてないみたいに走り始める。目が慣れてきても見えないのか、疲れで目が霞んでるのかわからないけど、顔はわからなかったし、息が切れる音は聞こえたから疲れてはいるはず。
そのうちそんなこと考えてる余裕もなくなって、こんなの続けるより夜道を帰った方がマシだ。他の奴らもどうせ先輩と組んで粘ってるんだろ。どうせならこのまま寝転んで朝になるまで寝てやる、みたいな自暴自棄の感情に満たされて、次バトン渡したら座り込もうと思ったんです。
最後だから次のやつの顔睨んで、裏切り者って、言ってやろうとして。
目の前のやつが四人の誰でもないことに気づきました。
後ろにいるやつも違います。
能面ってのがぴったりな顔してました。目も口もあるんですけどただ微笑んでるだけっていうか、ついてるだけみたいな感じなんです。
思わずバトン落として振り返って走り出しました。車の方に。
自分が走り出した場所にいるもう一人のことも、一緒に連れて行こうと一瞬迷って、結局手を掴まずに走り抜けました。
だって、そいつも能面だったら怖いから。
走ってる最中ずっと足音が聞こえて、ずっと一定の音が聞こえて、三人とか、そんな数じゃないぐらい聞こえてました。
やっとたどり着いて六人乗りのミニバンのドアをガンガン叩いて開けたら、中には部長と、部長の兄貴と、ほかのやつ三人がそろってました。
早く車出せ!って叫んで、急いで山降りて、なんだよあれ!って先輩に怒鳴ったけど、知らねえしか言わない。『夜中に走ると追いかけられる』って噂しか知らないし、何に追いかけられるかもわからないって。
というか、走り出して最初の方で一人が転んでそいつと見張りしてた部長が車に戻って、もう少ししてリタイアした二人目、それからさらに時間が経って三人目が車に戻ってきて、そいつが『俺はもう無理だから帰るって言ったけど聞こえてないみたいだった。俺がいなくなったら一人しかいなくなるし、もうリレー続けられないからそのうちこっち来ると思う』って言ってたから車で待機してたらしいです。
そのはずが十分経っても十五分経っても戻ってこない。ぶっ倒れてるんじゃないかと思って探しに行こうとしたら俺が走ってきたとのことで、その時も、部長たちは何も見てないらしいです。
色々聞きたいことも言いたいこともあった中で、心臓が落ち着いてきて、とりあえず一番言いたいことを口にしました。
「走るの、やめたら、歩いて帰らせるって言ってたじゃないですか」って。
そしたら『夜の山道歩いて帰らせるとか危険すぎるだろ。冗談だよ冗談』って。
ぶん殴りましたね。なんでそこだけ常識的なんだよって。だって、そのせいで、俺はこんな目にあったのにって。
幸い部長の兄貴もこっちに味方してくれて、それからいじめられなくなったけど、他のいじめられてたやつとも話さなくなりましたね。結局見捨てられる形だったし。
最初に言った通り、ずっと音が聞こえるので陸上も止めました。
走ってるのが一定の速度を超すと、足音がするんです。少ない時も多い時もありますけど、何かが追ってくる音が。だから、わざと足の骨、瓶で殴ってひび入れて、そのせいで走れないってことにしてます。
こんな風に後始末までやってる俺、偉くないですか?
こんな風に被害者がちゃんと自分でどうにかしてるのに、加害者がのうのうとインターハイとか行ってるのって怖くないですか?
普通じゃないですよね?
普通じゃないって、怖いのに。普通じゃなくなったのが滅茶苦茶怖いのに、そんな風にしたやつがテレビで笑ってるの見ると反吐が出るんです。
これは告発でもあります。広めてください。
現A大学二年の小山の、E高校一年だったころに足音の橋で走らされた時の話です。
次の人どうぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます